第53章 【Sorry for Dali その6】
電車の中、席に座る縁下美沙はスマホ片手にげんなりしていた。
「どうしたの、美沙さん。」
隣に座る茂庭が心配そうに言う。
「さっき」
げんなりした顔を隠そうともせず美沙は答えた。
「うちの兄に帰りの電車乗った事連絡したら」
「うん。」
「迎えに来るて。」
茂庭が一瞬固まったのを見て、美沙はですよねーと思う。
「茂庭さんもいてはるし、いらんって返したんですけど。」
「うん。」
「それでも行くってしつこうて(しつこくて)」
「ま、まぁ驚かないかな。」
「ほんで先程まで抵抗した結果がこちらです。」
座席からずり落ちるのでは、と思うくらいうなだれて美沙は茂庭にスマホの画面を見せる。
美沙からは見えていないが、縁下美沙とその義兄の壮絶な攻防を目の当たりにした茂庭は引きつった笑みを浮かべていた。
「お疲れ様、いやマジで。」
「及川さんならともかく茂庭さんを疑うとは、我が兄ながらなんちゅう事や。」
「信用頂いてるのは嬉しいけど、及川が聞いたら暴れそうな発言だな。」
「とにもかくにもホンマすみません、こんな兄で。」
「ま、まぁ俺も承知の上だから気にしないで。」
茂庭に気遣われて美沙はしょんぼり状態から少し復活する。
その後2人は降りる駅までしばし静かにしていた。