第10章 【関西弁の色物】
夜の東京某所にて宮城県立烏野高校1年影山飛雄が携帯電話に向かって喚いている。
「ままコてめーっ、このスマホオタクッ。」
少年が喚くと携帯電話の受話口は少女の声でこう怒鳴り返してきた。
「言うたなこのツリガネムシっ、アメーバっ。」
受話口の音量設定の問題かはたまた相手方の声がでかいのか、いずれにせよ通りがかった宮侑はそのやり取りをしっかり聞いてしまった。
一方影山飛雄はそんな事など気づいていない。
「ツリガネムシとかて何だボゲッ。」
「単細胞って事に決まっとうやろ。」
「俺は単細胞じゃねえっ。」
「ほな西谷先輩にもろたっちゅうあのTシャツの文字は何なん。」
「あれは西谷さんのセンスだっ。」
「せやからあんたは天然ボケや言うねん。」
「ままコに言われたかねぇっ。」
「私は天然ちゃうしっ。」
「それでも半分ボケだろーがっ。」
「兄さんはともかくあんたに言われとないわっ。」
「んだとコラァ。」
ひどい会話である。あの影山飛雄がどうやら女子と電話しているらしい事に興味を持ってつい立ち聞きしていた宮はこらアカンわとつい影山ににじりよってしまった。
「飛雄くん、何してるん。」
後ろから声をかけると影山はビクウッとなり言葉を失ってこちらを振り向いた。一方電話の相手の声が受話口から聞こえる。どうやら声がでかいらしい。
「しもしもー影山ー、どないしたーん。」
影山は固まったまま動かない。面白くはあったがどうにもすぐ動きそうにない様子だ。宮はラチがあかんなと判断し勝手に影山の手から携帯電話を取り上げて話し始めた。
「もしもし。」
話した瞬間電話の相手はふぎゃああっと叫んだ。ふぎゃあって何やふぎゃあてと宮は吹き出しそうになる。
「ああごめんな、俺宮侑。高2や。飛雄君と一緒に合宿してる。よろしく。」
電話の相手はあ、う、とあからさまに戸惑った声を出す。
「ええとあの、影山と同じ学校の縁下美沙言います、1年です、よろしゅう。」
「エンノシタ、何やおもろい名前やな。」
「よう言われます。」
「縁の下の力持ちとか言われへんか。」
「それ兄さん。」
「兄ちゃんおるんか、そんで言われとるんか。」
「文字が多くて覚えられへんって無茶苦茶も言われる。あ、兄さんは影山とおんなじチームです。」
「大変やねぇ。」
「もう今の名前になってから慣れました。」