第51章 【Sorry for Dali その4】
「俺もだよ。」
「ですよねぇ。」
「でもこういうの見たら、巨匠って呼ばれる人って絵が上手ってだけじゃなれないって思うよな。」
「確かに。いろんな知識の涵養(かんよう)につとめんと。」
「俺、大人以外で涵養って普通に使う人、美沙さんが初めてかも。」
「そうですか。普通やと思いますけど。」
首をかしげる美沙、こいつはそもそも日頃使っている関西弁だって古い言い回しが多い事を忘れているのか。
「美沙さんってもしかして、僥倖(ぎょうこう)って普通に言ったりする人。」
思わず間抜けな事を聞いてしまう茂庭、しかし縁下美沙はいつもどおり何も考えていない風に言った。
「言いますよ、だって普通の言葉やないですか。」
そら聞くまでもなかったじゃないか俺の馬鹿、と茂庭は思った。
「何や話題になってる若い衆が言うてたらえらいTVとかラジオでわいわい言うてはるけど、あれもおかしな話ですねぇ。ばあちゃんが生きてたらTVに向かってさぞかし文句言うたと思いますわ。」
ただでさえ関西弁はこのあたりでは聞かない上に、おそらく普通の高校生は"若い衆"などと言わない。
これ以上言語に関する話題を続けると悪目立ちしそうだと判断した茂庭はそうかもしれないね、ともの凄く適当に応えて作品に話を戻す。
「俺らにはパッと見、何を言われているのかわからないけれど」
茂庭は言った。
「それでもこの絵は綺麗だよな。」
美沙が横で頷いた。
「いらんって思ったもんをどんどん落としてった結果、これがダリ先生の局地になったんかもですね。」
「考え方としてはありかも。」
そうして2人は微笑みあい、少し名残惜しさを感じながら最後の展示から離れていったのであった。