第50章 【Sorry for Dali その3】
そして、縁下美沙もまた茂庭と同じかそれ以上に巨大な絵を見つめている。
かつて美沙の義兄、力と及川徹が思ったことを茂庭も思った。
この子、本気で絵の中に入るつもりじゃないか、と。
ここで茂庭は突発的にヤバイ、と感じた。
本当に美沙が柵を超えて絵に近付こうとした訳でもなければ、他の客から早く進めとせっつかれた訳でもない。
それでも
「美沙さん。」
何かまずいと感じた茂庭は現実感を喪失したかのように絵を凝視する美沙の肩を軽く叩いた。
瞬間、美沙は体をビクリとさせる。
「あ、」
呟いて茂庭を振り返る縁下美沙の目はまるで夢から醒めたかのようだった。
「すみません、つい夢中になってもて。」
「無理もないけどね。」
茂庭は苦笑する。
今日(こんにち)まで残る巨匠の力はあまりに強大だった。
次章へ続く