第49章 【Sorry for Dali その2】
「な、あの美沙さんが兄貴と同じ匂いがするからって茂庭さんにはなついてるもんなあ。」
「うちの美沙を幼児か愛玩動物扱いするのも様式美か。」
ジト目で呟く力にしかし木下はこうのたまった。
「お前のソワソワがまず様式美になってると思う。」
木下があまりに清々しくきっぱりと言い放ったものだから、そばで聞いていた菅原と成田がぶっと吹き出す。
気づけば田中、日向、山口、谷地も肩を震わせているし、西谷、澤村、東峰、清水はうんうんと頷いているし、影山と月島は顔こそ特に変わらないもののあー確かにと言いたげな雰囲気を醸し出していて、力はたちまちのうちに顔が熱くなるのを感じた。
「お前から爆弾発言食らうなんてとんだ不意打ちだよ。」
キシシシと笑っている木下を力はジロリと見るも当の木下は笑うのをやめる様子がない。
「いーじゃん、事実はかえらんねーし。」
「へえ。」
あまりの言われように力は何かがプチッとキレた。
木下からすれば笑顔だが頬のあたりに怒りの四つ角が浮かんでいる力に凝視されている形である。
「ま、待てって、縁下、」
この時木下は相当慌てたというし、成田と菅原は力をとっ捕まえて止めるつもりだったという。
「事実指摘されたからってキレるなんてらしくねーぞてか美沙さんに言ってもいいのかお前逆に怒られるぞ。」
早口で言う木下の言葉に力はハタ、と落ち着いた。
「悪い、行き過ぎた。」
「や、俺も一言多かった。」
謝り合う2人にここでゴホン、と咳払いの声が響いた。
力は勿論、部員達は一斉に声がした方を振り向く。
「お前ら、」
コーチの烏養繋心だった。
「毎度毎度縁下妹の話で楽しそうだなあ、そろそろ休憩時間終わりなんだが。」
ドスをきかせた大人の低音、たちまちのうちに部員達はほぼ全員が慌てふためき、すみませーんっと頭を下げてめいめいいるべき場所に戻る。
「ったく。」
ため息をつく烏養に力はまたやっちまったなあと思いながら、自分もコートに戻ろうとした。
が、
「縁下、」
烏養に呼び止められた。
「何でしょう。」
何か悪い予感がする、と力は思う。
そして烏養はほんの少しの間力を見つめて言った。
「妹はまた何処と揉めた。」
苦笑せざるを得なかった。
次章へ続く