第49章 【Sorry for Dali その2】
さて、そうして美沙は待ち合わせ場所に到着した。
時刻は約束よりも5分前、なのであるが
「あ。」
「おはよう、美沙さん。」
何と茂庭が既に待っていた。
「おはようございます、ちゅうかすみませんすみません待たせてもて。」
慌てる美沙だが、逆に茂庭も慌てて両手を横に振る。
「いやいや俺が早く来ただけだから。実はさ、今日が楽しみでしょうがなくて。」
照れたように笑う茂庭に美沙は目を丸くした。
確かに誘った時も随分と嬉しそうではあったが、楽しみで気がはやる茂庭というのは予想していなかったのである。
それに同行するのは大体妙なもの扱いされる自分、縁下美沙であるというのに。
思わずじっと見てしまった為か、茂庭が更に慌てだした。
「いや美術館がって事だからいやだからって美沙さんと行くのが楽しみじゃないって意味じゃなくて」
ひどくワタワタする茂庭を見て、美沙は思わずにっこりと笑った。
少し緊張が解(ほぐ)れた気がする。
「何か、茂庭さんの意外なとこ見てもたかもです。」
「え、そうかい。」
「茂庭さんて基本落ち着いてはるから、楽しみではよ来てまうってイメージがなかったんで。」
「ま、まぁ、その、俺だって人間ってことだよ。」
「確かに。」
美沙はまたにっこりと笑う。
普段表情があまりない美沙の笑顔を直視してドキッとした茂庭は体を一瞬ビクリと肩を震わせる。
「じゃあ」
何とか落ち着きを取り戻した茂庭は言った。
「行こうか。」
「はい。」
美沙はうなずいて茂庭と一緒に歩き始めた。
一方、こちらは烏野高校第二体育館である。
男子排球部がコーチ烏養繋心の指導と顧問武田一徹の監督のもと、休日の練習に励んでいる。
はずなのだが、縁下力は内心ソワソワしていた。
今頃義妹の美沙は茂庭と一緒に美術館へ向かっているだろう。
嫉妬までは行かないが一線を越えてまで愛する義妹、それも今日日珍しいレベルの出不精が他の男子と出かけているというのはどうにも妙な心持ちだ。
相手は茂庭さんだ、及川さんならともかくあの人なら美沙に変な事しないから大丈夫大丈夫。
力は一生懸命自分に言い聞かせる。