第48章 【Sorry for Dali その1】
それもまた唐突だった。
「え、チケット。」
とある日の烏野高校、パソコン部での事だ。
烏野高校1年5組、縁下美沙はそう聞き返していた。先輩である2年は美術館のチケットを美沙に見せながら頷いている。
言う所によると知っている筋からチケットをもらったのはいいが、今週は自分も予定があるのでいけないのでどうぞ、ということらしい。
縁下女史は美術館によく行くって聞いたし、それ4人までOKだからと彼は美沙にチケットを差し出す。
「わあ、」
美沙は顔を輝かせた。
「これめっちゃ見たかったんです、ええんですか。」
先輩は勿論と言う。何ならお兄さんと行ったらいい、と付け加える。
2年4組男子排球部所属である美沙の義兄、縁下力、基本は真面目な常識人である。
が、彼が義妹に対して物凄い溺愛ぶりを示す事はもはやパソコン部でも浸透してしまっていた。
「ありがとうございますっ。」
一方の美沙は付け加えられた部分はさておいて喜び、チケットを受け取るのだった。
そうしてパソコン部の活動も終わった所で美沙は義兄の力と一緒に帰っていた。
義兄が男子排球部の為、その部員達も一緒である。
ここに1人だけパソコン部が混じっているというのもおかしな話だが、とある事情で縁下力が週の殆どは義妹を伴って帰るという決まりを作ってしまっている為だ。
美沙のクラスメイトにして親友である男子排球部マネージャーの谷地仁花が事情をよく知っていたし、他の連中も主将の澤村大地を筆頭として、力が義妹限定で妙なこだわりを発揮するのは承知しているからこその状況といえよう。
勿論一部は承知しているというより異議はあるけど諦めているのもいて、1年4組の月島蛍は先輩である兄の力にも同級生である妹の美沙にも文句を言っているし、力と同じ2年生仲間の木下久志と成田一仁は義妹が絡むと他校相手の時まで暴走行動を取る力を諌めたり物理的に止めに入っていたりする。