第45章 【王者の命】その5
ああそれかぁ、と美沙は思った。牛島については谷地を不良生徒から庇って怪我をした日に道端で腕輪を拾ってもらったのがきっかけであるが、天童他との関わりがまさか日向、影山とこっそり潜り込んでたら見つかったのがそもそもであるとは言いにくい。
「何というか、たまたま道でお会いして以来偶然会いましたってことが多くて。」
美沙は適当にそう答える。
「あとその、お宅の主将さんが突っ込みどころ多くて我慢出来なくて突っ込んだら何かだんだん私も慣れてきました。」
「牛島さんに突っ込みどころ。」
「マジか、身内の俺らでも信じらんねぇ。」
「私ら兄妹の名前を覚えてくれずに電脳娘って何度も呼ばれるし、何か今回も私の話を監督さんにするのに名前ど忘れして電脳娘って言ったらしいし。」
「いやそのシャツ着てたら無理なくね。」
「てかそのシャツすげぇな。」
「兄と同期のバレー部の人にもらいました。」
「何とも言えないセンス。」
「赤倉君だっけ、それは置いといたげてください。気持ちは有り難いし使い勝手はいいと思ってるんで。」
「お、おう。」
「あと話したらよく微妙にズレたことを仰るから突っ込まざるを得ない。」
「そんなに。」
「うん。」
不思議そうにする寒河江を見て、美沙は多分牛島さんはレギュラー以外の後輩さんら相手にそこらへんがわかる程の会話はせんのやろなと思う。
だがしかし今の美沙としては牛島がバレーで凄いのはリアルによくわかった、でも突っ込みどころは話が別、である。
「ただ、動画を見てくれてるのは嬉しい。」
ここで美沙は無意識に微笑んでいて、寒河江と赤倉は笑ったと思わず見つめていた。
「あ、そういや翔陽が動画投稿者だって。」
美沙は気づいていなかったが慌てたように寒河江が言う。
「そう、その辺にいるただの動画投稿者。」
「動画投稿者って只もんなの。」
赤倉がテンプレ通りの疑問を返し、美沙は標準語であるが例によってさらっと返す。
「絵が下手だから1ヶ月で再生数3桁行ったらもうけもんくらいの底辺だし、最近手軽に音に合わせた自撮り動画投稿するコミュニティみたいなアプリもあるから動画投稿者なんてそこいらにいるだろうし。」
「そういう問題なのか。」