第42章 【王者の命】その2
「事情は飲み込んでくれましたがまだ戸惑ってます。」
スマホの受話口を手で塞ぎながらコショコショと力は武田に囁き、察しのいい顧問は頷いて手を差し出す。
力はスマホを顧問に預け、代わりに武田が美沙さん、と落ち着いた様子で話しだした。
「急で困っているのはわかります、本当に申し訳ないです。ですがお兄さんからあったように事は急を要してます。僕からもどうかお願いしたいです。」
先生ナイスです、と力は思った。顧問からああ言われれば美沙も動かざるを得まい。
武田が一瞬だけ沈黙している。恐らく義妹が一瞬考えているからだろう。
「そうですか。」
武田がまた話しながら振り向いてグッと笑顔で親指を立てる。力はほっと息をつき、白鳥沢の選手達も顔を見合わせて良かったと声なく言い合っていた。
「良かった、とても助かります。親御さんに替わってもらえますか、事情をお話しないといけないので。」
またしばし途切れる会話、武田は黙って斉藤を手招きする。
「失念していたがご両親の許可は下りるだろうか。」
ふいに牛島に聞かれて力はビクッとしながらもあ、はいと答えた。
「大丈夫だと思います。母は美沙を溺愛してますけど話せばわかるはずです。」
「お前に溺愛と言われるというのは。」
「あ、ああ、いやその。美沙を引き取るって言った張本人なもんで。」
「そうか。」
言っている間にも斉藤が電話を替わってぺこぺこしながら話している。
様子からして話は通じているようだ。しばらくしてまた電話は武田に渡される。
「それじゃあ美沙さん、早速この後ですが僕と縁下君と先程の斉藤コーチが一緒に迎えに来ます。お家で待機していてください、準備が出来たら縁下君に連絡を入れて。ああそうですね、運動する時の服装で。」
そうして武田はではまた後で、と話を締めくくり電話を切った。
「縁下君、ありがとう。」
スマホを力に返しながら武田は言う。
「鷲匠先生、無事話がつきました。烏養君、これから迎えに行ってきます。」
「おう、こっちはちゃんと俺が見とくから。」
「縁下君はすみませんが案内役で一緒に。」
「はい。」
「本当にありがとう。」
「すまねぇな、6番の。」
「いえ、妹がお役に立てるなら嬉しいです。」