第42章 【王者の命】その2
「しもしも。」
3コールほどで義妹は応答した。事情を知らないまま義兄からかかってきた為、安定のいちびり(おふざけ)対応である。
「ああ美沙、今大丈夫。」
「うん。どないしたん。」
一瞬力は言葉に詰まった。義妹が動揺して叫ぶ姿がすぐ予想できたからだ。
「実は、さ、ちょっと白鳥沢に来てほしくて。」
「えっ、何で。兄さん結局忘れ物したん。」
まぁそう聞かれるのも無理はない。
「いや、それが白鳥沢の監督とコーチと牛島さんから直々の依頼があってさ。」
「待って待って兄さん、話がわからん。」
困惑する義妹の声、そりゃそうだよな俺だって思うよと力も考える。
「要約すると、今日の練習試合の撮影をお前にお願いしたいって。」
「何でええええええええええええっ。」
受話口から義妹の叫びが上がって力は一瞬スマホを耳から離す。少々音漏れしていたのだろう、鷲匠と斉藤は驚いたように、牛島以下白鳥沢のメンバーは各々何か言いたげに、烏養と武田は無理もないといった風に力の方を見ている。
「お願いしていた所が急に来れなくなったらしくて今すぐ代わりの人が必要なんだよ。」
「そんで何で私なんっ。」
「牛島さんの推薦。」
「またウシワカさんの天然っ。」
「コラ馬鹿、声でかい聞こえるっ。」
一応注意したものの遅かったらしく牛島が俺は天然じゃないと低く呟き、天童が出たぁとクスクス笑っているのが聞こえる。
鷲匠と斉藤がどんな反応をしているのかは恐ろしくて確かめられない。
「お前の腕を見越してって事だよ。で、向こうの監督さんとコーチの人も了承済。」
義妹がうーと唸る声が聞こえた。腕を買われているのはとても有り難いが無茶振りな上にあれほど突撃するなと言われていたにも関わらず結局呼びつけられる点に不満があるのだろう。
「有り難い話やけど突然過ぎやしおまけに白鳥沢て。」
案の定義妹は不満を隠そうとしない。ここで力が圧力をかけて、いいから来なさいと言っても何とかなるだろう。
しかしここでそれをやると恐らく義妹は後に引き摺る。どうしたものかと一瞬考えて、気がつけば心配したのか武田が側に来ていた。