第42章 【王者の命】その2
「緊急事態だ、あの6番の妹に用事がある。」
「ハアッ、何で縁下妹っ。」
思わず敬語も吹っ飛んで叫ぶ烏養を責めることは出来まい。
妙な具合を察知したのか武田も飛んできた。
「すみません、何かあったんでしょうか。」
「ああ武田先生、こちらこそすみません。ちょっとこちらでアクシデントがありまして、そちらの生徒さんにお願いしたい事が。」
斉藤が言っている間にも話は進む。
「早く呼べ。」
鷲匠に睨まれて烏養はまるっきり自身の祖父に圧力をかけられたかのような気分でウォーミングアップ中の自チームに目をやる。
盛大なため息をつきたい所を我慢して呼びかけた。
「縁下ぁ、ちょっとこーい。」
今度は縁下力がハイッと飛び上がらんばかりの勢いで返事をしてすっ飛んできた。
呼ばれた縁下力も心臓がおかしくなる思いでやってきた。
一体何故に自分が呼ばれたのか、しかも白鳥沢の監督とコーチの前に、だ。
自分が彼らに呼ばれるほど妙なことをした覚えはないし、そもそも彼らが自分を記憶するような事はまずないはずなのにどういうことか。
「何でしょう。」
平静を装う努力はしているもののやはり物凄い圧―烏養繋心の祖父である前監督を思わせる―に力は足が軽く震えているのを感じる。
何だよこれ一体俺に何が起きてるんだとすら思う。
そして次に鷲匠の口から出た言葉に力はおかしくなりそうな心臓が今度は口から出るかと思った。
「いきなり悪いがお前の妹を呼んでくれ。」
「ええっ、なっ、」
動揺するなというのは無理な相談である。実際、傍で見ていた白鳥沢の連中もほぼ全員がうわぁと気の毒そうにしていた。
「なんっ、なんでうちの美沙っ。」
「縁下君、落ち着いて。」
「や、気持ちはわかる。」
武田と烏養に言われて若干は落ち着いたがそれでも心臓のドキドキは止まらない。
「実は」
ここで斉藤が申し訳なさそうな笑顔で事情を説明してくれたのだった。