第42章 【王者の命】その2
「あそこにいる、あの6番の妹です。パソコンとスマホに強くて動画投稿者なので撮影するならその子がいいんじゃないかって若利が言ってるんです。」
「あっれー、でも待って。ままコちゃんて描いてみた動画の人デショ、カメラで撮影なんか出来んのー。」
「他所との練習試合の撮影経験があるそうだ。それにあの兄がしばしば実写で自主映画制作をしていて付き合わされるとか。」
「若利クン、ままコちゃんとそんな話までしてたの。」
「最近SNSで時折やりとりをする。知らない分野の話も悪くないからそのまま聞いている。」
「とうとうフォローまでしちゃったの、どんっだけファンなのさ。」
「随分と仲良くなったんだな、若利。」
副主将の大平獅音がにこにこ笑い、
「意外な事もあるもんだよな。」
リベロの山形隼人が呟く。
「でも大丈夫ですかね。あ、いやままコさんの技術の話じゃなくて」
更に2年の川西太一が口を開くと同じく2年の白布賢二郎がチロリと少し離れた所に立っていた後輩を見る。
「確かに、ここにあいつが来たら速攻面倒が起きそうだな。」
言われた後輩、五色工はビクッとした。
「白布さん、俺は別にっ。」
「いつも薬丸と顔合わしたら喧嘩すんの誰だ。」
「喧嘩じゃないっす、それにあいつ今は薬丸じゃないですっ。」
「相変わらずそこは無駄にフォローすんだな。」
わいわい言う選手達、しかし鷲匠は既に決めたようだ。
すっと烏野の方に目をやる。
「おい、烏養の孫。」
威厳ある声で呼びかけられた烏養がバッと振り向き、ダダッと駆け寄ってきた。
烏養繋心は突如呼ばれて内心激しく動揺していたという。
「な、何かありましたか鷲匠先生。」
おかしいな、今日は縁下妹がいねぇから妙な事は起きてねぇはずなんだが、などと烏養は本気で思う。
美沙が聞いたら黙っていないだろうが如何に縁下美沙に困らされているかがよくわかる話だ。
特に力が普段はまともなのに義妹が絡むとおかしくなって自分も止められない事態になるのがポイントだろう。
一方、そんな事情を知らない鷲匠はスパッと用件を切り出す。
「お前のとこのあの6番、ちょっとこっちに呼んでくれや。」
「えっ、いやしかし」
当然烏養は更に動揺する。何言ってんだこの人状態だ。