第40章 【トラブルドゥトラベリング】その6
いつもどおり斜めがけしていたガジェットケースからスマホを取り出して通常の電話アプリを起動、急ぎつつも慎重にタップした連絡先は
「えっ、美沙っ。」
受話口の向こうで日向が応答した。
「日向ごめん今すぐ私とやっちゃんが泊まってる部屋来てっ、出来るんやったら影山も一応っ。」
「何で」
「ほんまの緊急事態やっ、ええからはよっ。」
「わ、わかったっ。」
通話が慌てたようにプツンと切れる。次に美沙は高速でメッセージアプリを起動、連絡先を呼び出して無料音声通話のボタンをタップする。
「ちょっと何。」
「月島ごめん、私とやっちゃんの部屋来てっ、できれば山口も一緒っ。」
「ハ、何で嫌だけど。」
「緊急事態っ、宮さんズが突撃してもとんのっ、やっちゃんがヤバイからはよ来てっ。来てくれんかったら兄さんに言うたるからっ。」
とうとう義兄を使って軽く脅しにかかった美沙、流石の月島も動かざるを得ないと判断したかチッと舌打ちをする。
「宮城帰ったらショートケーキ。」
「1個だけやからねっケーキたっかいもんっ。」
「山口とすぐ行く。日向と王様は。」
「日向にはさっき連絡した、影山も一応って頼んだ。」
月島は応えずすぐに通話を切った。
嵐のような勢いの連絡ぶりに同室の女子達が美沙をじーっと見つめている。
「や、その」
我に返った美沙は途端に慌てた。
「あない(ああ)言わな月島は絶対動かんやろから。」
それでも月島相手によーやると同室の女子達は呟いていた。
烏野の方はこのように大騒ぎであったが稲荷崎の方も穏やかではなかった。
「あれ、いない。」
宿泊している部屋で角名が呟く。クラスが同じである宮治の姿がないのである。
「誰か治知らない。」
同室の男子達に聞いてみるも皆首を横に振る。
「どこ行ったんだろ、めんどくさ。」
ボソリと角名が呟いた時、ドアの外でひどくバタバタした足音が響いた。
激しくノックされた挙げ句応答があった途端にバーンと勢いよく開けられたドア、早速ダルそうな予感である。
「角名っ、えらいこっちゃっ。」
スライディングで室内に飛び込むんじゃないかと思いたくなる勢いで声を上げるのは銀島だった。
側には小作もいる。