第34章 【強引g his way】その5
田中の願いと烏養の思いが強く届いたのかその後は特に他校とすれ違うこともなく縁下美沙がいることによる妙な騒ぎは起きなかった。
烏野高校男子排球部関係者は文字通り上から下まで疲弊した。
しかし全く関係がないのに義兄によって連れてこられ、知っている限りの県内の他校に喧嘩を売られたり公衆の面前でセクハラされたり天然ボケをかまされたりだった当事者である縁下美沙が一番体力を消耗したと言えよう。
「もー今度こそ男バレの用事には付き合わへんもん。」
自室のベッドにうつ伏せで転がりながら美沙は唸る。枕に顔を埋(うず)めているのでかなり声がくぐもっているが家に帰ってからどっと疲れが押し寄せてきた為に夕飯に呼ばれるまでは動きたくない。
強引さを貫いた当の義兄はそんな美沙の横に座っていて美沙からは見えないがいつもどおり微笑んでいる。
「そう怒るなよ、他校に出くわしたのは俺も想定外だったし。」
「烏養さんにはめっちゃ怒られるし冴子さんは笑(わろ)てるし嶋田さんと滝ノ上さんはドン引きしとるし、これで万一武田先生に課題出されたら兄さんのせぇやで。」
「ごめんて。」
力は言って義妹の頭をそっと撫でてきた。しかし美沙は今回ばかりはという意思表示で力の手をペチッと軽く叩く。
顔は見えないが義兄は一瞬戸惑ったらしい。だがしかし流石というべきか義兄はこのくらいで引き下がるタイプではなかった。
次の瞬間美沙は義兄に向かってこらーっと声を上げる。
今回最初からコーチを根負けさせるくらい強引だった義兄は強引に上からおっかぶさってきて美沙を抱きしめていた。
「わが道を行くってこういう事やったっけ。」
「どうだろうな。」
「とぼけなーっ。(とぼけるな)」
念の為付け加えておくと幸い一連の騒動は男子排球部顧問、武田一鉄の耳に入ることはなく美沙は武田から怒られたり課題を出されたりはなかったという。