第34章 【強引g his way】その5
何も知らない―力もたまたまタイミングがなかった為にちゃんと話をしていなかった―美沙からすればたまたま言葉が似ている面白がりに一時的な興味を持たれただけという認識だが排球部関係者からすればとんでもない話である。
だが烏養が片手で両目の辺りを覆い、嶋田と滝ノ上が引きつった笑顔になった所から美沙は嫌な予感がした。
「もしかして私また何か釣ってもてたん。」
思わず義兄にお伺いを立てると義兄は苦笑して頷く。
「それこそ雑誌に載ってる高校バレーボールの有名人。」
「兄さん言うてくれへんかったやん。」
「ごめんよ、直接セクハラされてるわけじゃないから基本忘れてたしタイミングなかったから。」
「というかどうせ知った所でままコさんの対応は変わらないデショ。」
月島があからさまに面倒臭そうに呟いた。
「ウシワカに対して業界有名人なの知ってる上であれなんだから。」
「美沙、何で俺を見たっ。」
「日向の方が部活であちこち行くし妙にコミュ力高い分他校であれこれあるはずやのに何で私ばっかし。」
「俺美沙みたいにあそこまで喧嘩したりしねーしっ。伊達工の主将と言い合ったら負けるっ。」
「威張って言いなっ。そもウシワカさんの件かて日向と影山が偵察に一緒に来てくれ言うから行ったら五色君とか天童さんとか色々くっついてきたし。」
「ままコてめぇっ、俺まで巻き込むんじゃねぇっ。」
「ええいやっかましいっ、そも宮さんの件かてアンタが原因やないのっ。」
「俺は何もしてねぇっ。」
「アンタが宮さんにびっくりして固まって電話そんままにしたトコ宮さんが拾(ひろ)たんが発端やんっ。」
「繋心、縁下妹が全国クラスになってるみてぇだけどあれは。」
話を聞いていた滝ノ上が烏養に言うと烏養は俺が知るかよとため息をついた。
「てかあの大騒ぎ先生が知ったら黙ってねぇかもなぁ。」
「あー武ちゃんねー。」
冴子があっけらかんと話に参加する。
「でも武ちゃんなら大丈夫じゃない。」
「あめぇ、先生は普段ああだけどガチギレしたら、うん。」
ここで烏養はブルブルと震えた。微妙に年上且つ普段は温厚な男子排球部の顧問がじわりと静かな圧力を発する時は流石の烏養でも恐ろしく感じる。