第32章 【強引g his way】その3
冴子の乱入で美沙が及川から解放される一部始終は青城側も見ていた。
「出番なくなったな。」
松川一静が言うと岩泉はや、と返す。
「寧ろ手間が省けて助かったわ。毎度毎度烏野6番とあの半分ボケとのゴタゴタに付き合わされてんだ、たまには休ませてもらわねぇと。」
「しかしまさかままコもいたとはなー。」
そういうのは花巻貴大でついでにハンドルネームままコこと縁下美沙に手を振っている。
「てかここしばらく烏野のいるとこに必ずあの子もいないか。」
2年の矢巾秀が呟くと同じく2年の渡親治がうなずいた。
「何でだろうな。」
「縁下君が連れてくるんだろどうせ。」
「よくあのコーチが許すよな。」
「俺に言うな渡。」
「あと国見がすごい顔になってる。」
渡の言うとおりで1年の国見英が眉間に皺を寄せて明らかにイライラした顔をしている。
日頃から縁下美沙が絡むと主将が暴走するのを目の当たりにし縁下兄妹の相互依存ぶりに呆れている彼としてはこれで何回目だと言うところだろう。
側にいる金田一勇太郎が慌てて国見その顔やめろってと言っている。
一方で2年の京谷賢太郎がズンズンと烏野の方へ向かっている。一匹狼くさい所がある上に田中に匹敵する目つきの悪い彼はチームメイトが話しているのを全く気にした様子もなく縁下兄妹の所へやってきた。
「やあ京谷君。」
側にいた田中が早速威嚇体制に入るが力は片手で田中の顔を抑えて京谷に挨拶をする。
笑顔はもちろん標準装備だ。
「京谷さん、お久しゅう。」
美沙も挨拶すると京谷はおう、と小さく呟いた。
「ままコ、大丈夫か。」
「おかげ様で。」
「そうかよ。」
京谷は呟いてズボンのポケットをゴソゴソして何かを取り出す。
横では及川がちょっとみんなして俺を無視しないでーと喚いているが当然流されている。
「出たっ。」
烏野側で菅原が呟いた。
「京谷君の餌やりっ。」
「スガ、美沙ちゃんは野良猫とか鳩じゃないんだから。」
「そうだぞ、そもそも野良猫とかにはうかうか餌をやっちゃいけないもんだ。」
「大地、それも何か違くないか。」
「ちょっとちょっと、どゆこと。」
冴子も反応して谷地が答える。