第30章 【強引g his way】その1
さて、こうなると義兄から話を聞かされた縁下美沙が叫ぶのがお約束であるが
「アンッタは阿呆かああああああああああっ。」
今回は最上級だった。大体美沙がこう叫ぶのは同学年の連中―多いのは日向や影山、他校なら音駒高校の灰羽あたり―に対してだ。
しかし義兄の力のせいで自分が巻き込まれる事態が度重なっている今日此の頃、流石の美沙も義兄への敬意はかなぐり捨ててアンタ呼ばわりせざるを得ない。
「声が大きい。」
夜の縁下家、美沙の義兄縁下力の部屋での事である。
部屋の主は美沙の叫びに対しベッドに座って本を読みつついつもどおり冷静に返す。
「五月蝿いのは田中と西谷だけで間に合ってる。」
「誰のせいやと思(おも)とんのっ。」
「誰のせいでもないだろ。」
「どー考えても兄さんのせぇやん何で毎度毎度私が男バレの用事に混ざっとんのおかしいやろっ。」
「烏養さんの許可はちゃんと取ったよ。」
「今回ばっかはめっちゃ怪しい。」
「いつになく失礼だなお前。」
「だってあのコーチええ加減怒りそうな頃合いやもん、せやのに許可降りたって絶対おかしい。」
「随分な言われようだな。」
「おかしいもんはおかしい。」
「許可降りたからいいだろ。」
「私の許可は。」
「何だって。」
「私の許可は取ってへんやん。」
「必要ないから。」
何と義兄は静かに本のページをめくりながらとんでもない事を言ってきた。
「ないことあらへーんっ。」
「原則お前を1人にするって選択肢はない。」
「そこはありだろがっ。」
「標準語でしかも乱暴な物言いはやめな。」
関西弁で話していい相手かわからない時または激怒した時以外は標準語を使わない自分をそこまで追い詰めたのは誰なのか。
「ええいっ、もうええもんねっ。」
流石の隠れブラコンもたまりかねた。美沙は声を上げて部屋のドアへと向かう。義兄の部屋を出た瞬間敢えてバターンと大きな音を立ててドアを閉めた。
部屋の中から義兄の静かに閉めろと注意する声が聞こえたが今回ばかりは返事をするつもりがなかった。