第29章 【コックローチアタック】
「大変だねいつも。」
「兄さんもおかしいけど澤村先輩が了承したんが納得行かへん。」
「縁下さん落ち着かせるならその方が早いって思ったんじゃない。」
「うちの兄さんて一体。」
「完全に美沙さんの時限定で凄いことになってるよね。」
「ホンマ困るわ、月島には嫌味言われるし木下先輩と成田先輩に迷惑かかっとるし烏養さんにはまたお前か言われるし他校からも弄られるしウシワカさんにまで天然扱いされるし。」
「最後の項目がおかしいんだけどそれ新しいボケなの。」
「流れのままに言うてもた。」
「そもそも天下のウシワカを天然呼ばわりするなんて美沙さん位のもんだよ。俺なんて喋るだけでもおっかない。」
「せやけどあの人ほんまボケボケやで、今だに私ら兄妹の名前覚えへんし。」
「うん、日向ですらそこまで言わないのにやっぱり美沙さん凄い。」
「せやろか。」
「うん。」
「ん、何やらスマホがやかましい。えーとリエーフと犬岡と後はまた及川さんかいっ。」
「忙しいね美沙さん。」
「及川さんがいっちゃんスタンプ寄越してくるから大変やねん。その時間を他の子に回したらええのに。」
「いや寧ろ美沙さんに回したいからやってるんじゃあ。」
「不思議な人やねえ。」
「うん、それには賛成かな。」
そんな他愛もない話をしている時である。
ふいに美沙は口を噤んだ。目の端に何やら不穏なものを見た気がするのである。異変に気づいた山口がどうしたのか尋ねると美沙はちょお待ってと呟く。
「何か今めっちゃ妙な予感がする。」
「え。」
山口が怪訝な顔をしたところで美沙は確信してしまった。丁度山口の後ろ、自分から見える壁の所にてらてらヌメヌメと独特の光沢を持つ甲虫(こうちゅう)がいる。
「ふっぎゃあああっ。」
たちまちのうちに美沙は叫んだ。
「Gがおるううううううううう。」
「えええええええええええっ。」
山口も叫んで美沙の指差す方向を振り返った。確かにそこには地球最強かもしれない家庭内害虫が触角を動かしている。