第5章 【聖夜は26日】
「この本。」
「前に、兄さんが欲しいけど、今は我慢するとか言うてて、その後も買ってた様子なかったから、その」
「覚えててくれたのか。」
「いやあの覚えてたいうか勝手に覚えてもたいうか」
照れがひどくなったのか美沙は早口で呟き、しまいめにあうあうとなってしまう。ああ駄目だこれ、と力は思った。瞬間に椅子から立ち上がってガバッと義妹を抱きしめていた。
「ちょちょちょ、兄さんっ。」
「ヤバイ、どうしよう。」
「どないしたん。」
「凄く嬉しいよ。」
「そぉ。」
目をそらす義妹の口調は照れているけれどもまんざらでもない様子である。
「兄さんが喜んでくれたらそれでええ。」
「いい子だね、お前は。」
力は美沙の頭を撫ぜてふと義妹の手を見る。
「で、今頃だけどこの手につけてる兎の前足みたいなのどうした。」
「帰りにウロウロしている時にたまたま見つけて可愛かったらからつい。」
何故か店で見つけてハッ可愛い、と密かにハワワな状態になっている義妹がリアルに目に浮かぶ。
「後、この兎の髪ゴムは。」
「ちっちゃい頃ばあちゃんが買(こ)うてくれたんずっと持っててん。」
「物持ちがいいな。でもどうせなら前足と一緒にうさ耳も買えば良かったのに。」
「そ、そこまで気が回らんくて。」
「じゃあ今度はうさ耳着用でよろしく。」
「兄さん、それ一歩間違(まちご)うたら何か怪しい人やで。」
「他所で言わないし俺しか見ないから別にいいよ。」
「そういう問題っ。」
「そういう問題。」
力は言ってそっと義妹と唇を重ねる。
「そうだ、後で写真撮らせて。」
「兄さん、最近そればっかしやね。」
「思い出作りだよ。」
「体(てい)のええこと言うて。」
「でも俺が喜ぶと思って着てくれたんだろ。」
美沙はうっと唸った。
「兄さんが意地悪や。」
「俺はツンデレで可愛い妹だと思ってるよ。」
実際は兄妹の一線を超えているけれどもと力は心の中で付け加える。美沙はうーとまた唸った。
「そんなんばっかし言うて、こうしたる。」
兎の前足っぽいものを装着した両手で力の顔がバフバフとやられる。
「これもプレゼント。」
「ちゃうもんっ。」
「俺的にはご褒美だから併せてもらっとくね。」
「知らんもん。」