第5章 【聖夜は26日】
縁下力の義妹になった旧姓薬丸美沙は少女の頃から完全な馬鹿ではないがどこかズレている所があって、それ故義兄の力だけではなく色々な奴から半分ボケ—下手すればはっきりと天然ボケ—と言われている。この昼休みの時だってそうだった。
「クリスマス、何それ食べられるん。」
12月のとある日、縁下美沙は堂々と抜かして義兄の部活の後輩である日向翔陽を飛び上がらせた。
「えええええええっ。」
良くも悪くもバレー以外では単純な日向は美沙の言う事を文字通りにとらえて声を上げる。
「美沙っ、クリスマス知らないのっ。そんなに箱入りだったのっ。」
「んな訳ないやろっ。」
日向相手には適切でない表現だったと認めつつも美沙は関西弁で突っ込む。
「ちゅうかなぁ、」
あーびっくりしたぁと息を吐く日向を見ながら美沙は片頬をカリカリと指先でかく。
「私クリスマスあんま興味ないねん。耶蘇の信心ちゃうし。」
「ヤソのシンジン。」
頭に疑問符を浮かべて首をかしげる日向にはたで話を聞いていた月島が早口で口を挟んだ。
「キリスト教の信者じゃないって事もういちいち解説させないまま子さんも相手を考える特に日向と影山の時っ。」
「何でそこで俺と影山なんだよっ。」
「ちゅうかまた月島にお説教されたし。」
「まま子さんまで文句言わない、誰のせーだと思ってんの、大体アンタさいつも」
美沙を動画投稿時のハンドルネーム、まま子で呼ぶ事がすっかり板についてきた月島が更に美沙に説教を始めたので友である山口がまぁまぁツッキーとなだめにかかる。
「でも美沙さんって本当珍しいよね、今更だけど。」
谷地が呟いた。
「和洋問わず行事類にあんまり興味なさそげな感じ。」
「お花見と夏祭りはみんなについていかしてもろたよ。」
ほへ、といったとぼけた顔で言う美沙に月島が引きつった顔で突っ込んだ。