第21章 【初めてのアルバイト】完結編
「美沙ちゃんは本当縁下の事大好きね。」
清水が呟いた所で澤村がポンと力の肩を叩いた。
「愛が溢れているのは結構だけどな縁下、溺愛も程々にしろよ。」
「勘弁してください、大地さんっ。」
笑顔で放たれた止(とど)めに力は叫んだが勿論勘弁してもらえるはずはない。おまけに部活に出たら烏養にはお前いつまで妹の世話焼いてんだと突っ込まれ、そろそろ美沙さんを自立させてあげましょうと武田にまで言われる始末だった。
それでも力は思った、これは死ぬまでつけておこうと。
勿論現実にはそうできるはずがなく、どうしても年齢や行く場所に合わなくなって来た所で力はそれを外さざるを得なかった。
「せやけどまさかずっと持ってはるとは思わんかったなぁ。」
微笑む母を息子はじーっと見つめる。
「言うていい。」
「どないしたん。」
「昔の聞く度思うけどおかんもおとんも高校ん時何しとったん。」
「何てあんた、それとおかん言いな。」
「聞いとったらめっちゃ恥(は)ずかった。」
「あの頃はまだ私もお父さんも若かったんよ、そんな事もあるて。」
「そのそんな事のせえ(せい)で俺今田中とか西谷のおじさんにめっちゃ弄られるんやな、ようわかった。」
「あの人らには一言言うとこか。」
「こっちから言っておくよ。」
母はせやねとそのまま流しかけて固まった、勿論息子も一緒に。
「ゲ、おとん。」
「何がゲだ、それとおとんはやめろ。」
「おかえり、力さん。」
「ただいま。というか人がいない時に何の話してたんだ。」
「いやまさか力さんがこれまだ置いてるって思わんかったからついその話を。」
「するなよ、恥ずかしいだろ。」
「俺がいっちゃん(一番)恥ずかった。おとん、何してたん。」
「悪い虫がつかないようにしてただけだよ、兄貴だったからな。」
「うわキモっ。」
「こらアンタっ。」
「お前、後で話がある。」
「嫌じゃっ。」
父に笑顔で圧をかけられた息子は母に似たやや乏しい表情でその場を脱兎のごとく飛び出した。
「私"じゃ"って言い方なんか教えてへんよ、あない(あんな)乱暴な。」
じっと見つめる夫に妻は言う。
「困ったもんだな、どこで覚えたんだか。」
「あの子の周り関西の子おらんはずやし、オンラインかなぁ。」
「昔のお前か。」
「はいはい好きに言うといて、"兄さん"。」
「こらやめろ。」