第21章 【初めてのアルバイト】完結編
「その辺にしろ、及川。」
「ウシワカ野郎は邪魔しないでくれる。」
「その娘が嫌がっている。」
「何この期に及んでまだ美沙ちゃんの名前覚えてないのバレー馬鹿すぎて人の名前覚えらんなくなったの。」
「名を覚える程親しくはない。」
「お兄ちゃんとセットで顔は覚えてるのに。」
そうして及川と牛島が謎のやり取りを続ける間縁下美沙は及川から逃れるべくもがいていたが義兄よりでかい野郎の腕力は今日日珍しい外に出ない系オタクにとけるものではない。岩泉が奮闘してくれているにも関わらずこれである為とうとう美沙は訴えた。
「誰か他の人助けて。」
助けは入った。美沙を拘束していた及川の腕がベリッと剥がされる。次の瞬間美沙の両足が浮く。またかと美沙がげんなりしたところで人形を置くかのようにカウンターの及川がいない側に降ろされる。
一連の流れは天下の牛島若利によって行われた。
「おおきに、ウシワカさん。」
「礼には及ばない。」
カウンターから見上げる美沙、その前に立って見下ろす牛島、更にその横にウガーッと暴れそうになり岩泉に営業妨害だボゲと羽交い締めにされている及川の図を見ていた白鳥沢の面々はほぼ全員が吹き出すのをこらえていた。
とはいえ何とか一旦事は落ち着いて及川も岩泉も買い物を済ませる。
「兄さんがおらんでよかった。」
呟く美沙から釣り銭を受け取りながら岩泉がまったくだと反応した。因みに及川は牛島に引き剥がされたのが相当気に入らなかったのか離れたところでふてくされている。