第21章 【初めてのアルバイト】完結編
青城が突撃してきた―しかも及川はきっちりセクハラをしてきた―とはいえ縁下美沙は引き受けたアルバイトを続行している。ボツボツ作業に慣れてきて挨拶も大分できるようになった。
そして業務終了後しばらくすると必ず義兄の力が迎えに来るのであった。
「お疲れっしたーっ。お先に失礼しまっす。」
今日も今日とて練習後の清掃とミーティングが終わると縁下力が誰よりも早く部室へと駆けていく。
「縁下の奴随分忙(せわ)しねぇな。」
「この所ずっとですね。どうかしたんでしょうか。」
コーチの烏養と顧問の武田が首を傾げていると他の部員達ほぼ全員がギクッとした。勿論烏養はそれを見逃さない。
「何だお前ら。」
「いえ別に。」
笑顔で答える澤村だが冷や汗をかいているのでごまかしきれていなかった。烏養はすぐにピンと来たようである。
「まさかまた妹じゃねぇだろうなぁ。」
ジロリと部員達を見る烏養に対してまともに答えられる奴または答える気のある奴はいない。
「あいっつ、またかっ。」
カーッと呆れたように天井を見上げる烏養、横で武田が苦笑する。
「おやおや、今度は何ですか。」
するとここで日向がはいと手を挙げた。話しやすい空気ととったらしい。
「美沙迎えに行ってます。」
「親かっ。」
まさかの烏養の突っ込みが来た。余程耐えかねたらしい。
「まった今度は迎えって何だコラっ。」
「美沙がバイト始めたんで心配だからってバイト先へ迎えに行ってます。」
「ハアアッ。」
烏養がこめかみに青筋を浮かべるのは責められまい。ここで菅原が何でも、と口を挟む。
「妹は良くても世間が信用出来ないっつって。」
「先生。」
頭を抱えつつ烏養がジトっとした目で武田を見る。武田は再び苦笑した。
「指導するべきか否か悩むところですねぇ。」