第20章 【初めてのアルバイト】後編
「これお願いしまーす。」
「ありがとうございます。」
美沙が努めて落ち着いてレジを操作し釣り銭を及川に渡そうとしたその瞬間である。
「ふ、ぎゃ」
危うくふぎゃああと叫びそうになったがこらえた。しかしこれは無理もあるまい、何故なら及川は釣り銭を渡そうと伸ばされた美沙の片手をギュッと握ったのだから。更にご丁寧な事にもう片手で覆うときている。目撃した岩泉がブチンときて突進しようとするのを金田一が必死で羽交い締めにしていた。
「ちょ、この人はっ。兄さん以外抱っこ禁止言うたら今度は何を」
もちろんやめる及川ではない。何やら温泉にでも浸かってるかのような顔をしている。
「相変わらず骨ほっそいねぇ、指折れちゃわない。」
「折れへんもんとりあえず離して手ぇなでなでせんといて。」
「癒やし効果。」
「日本語でおk。」
「あ、でもちょっと荒れ気味、クリームか何かちゃんと塗ってる。縁下君は何してんのかな、あんだけ過保護にしてる癖に。」
「心配してくれはるんはおおきに、せやけどはよ離して。」
「ヤダ。」
「こ、この人はっ。」
しぶとい及川に対してとうとう動いたのは岩泉ではなくこいつだった。
「ちょっと狂犬ちゃん首ねっこ引っ掴まないで引きずらないでっ。」
「ままコが嫌がってるっス。」
「狂犬ちゃんてばさりげにままコファンだよね。」
「いやこの場合京谷じゃなくても誰かが動いた気が。」
ボソリと渡が呟き、
「流石に俺が行かなきゃなんねーかなと思ったけど手間が省けたな。」
矢巾が続く。
「2年以下のみんなは最近俺を何だと思ってるのかな。」
「バレーの時以外は手がかかる。」
「ちょっと国見ちゃんっ。」
「金田一は遠慮してるだけで難儀だと思ってます。」
「おい国見っ、いやまぁ違わねぇけど。」
「金田一までっ。」
「ゴタゴタうるせえこのくそったれ、いい加減半分ボケにセクハラやめろしまいめにゴミ捨て場に置くぞ。」
「ごみ扱いっ。」
「回収が有料になるんじゃね、かさばるし。」
「コストかかる話だよな。」
「マッキーとまっつんもそのままネタに乗っからないでっ。」
「金田一、もういい離せ。」
「あ、はい。」
「そろそろ行きましょう、邪魔になりそうなんで。京谷、及川さんはそんままこっちな。」
「おう。」