第19章 【初めてのアルバイト】中編
「一番知り合ってる若利クンが何言ってんのー、ほら烏野の控えの義理の妹で動画やってる。」
「あの得体の知れない天然娘か。」
「向こうはぜってえ若利に言われたかないって言うだろな。」
「何故だ。」
「ツー訳でさっ、練習終わったらちょっと寄ってこーよ。」
「お前だけが面白い案件だろ、1人で行け。」
「セミセミったら冷たいネ。」
「花壇の肥やしにするぞコンニャロ。」
瀬見が言っている間に他の連中が声をあげる。
「俺行きますっ、あの電脳女が本当にいるならどうしてんのか気になりますっ。」
1年の五色工がデカイ声で言う。会う度相手に余計な事をいい脳筋呼ばわりされる割には気にしているのか。
「俺も行こうかな。」
ボソリというのは2年の川西太一、もしかしたらさりげなく面白がっているかもしれない。同じく2年の白布賢二郎はその横でフンと鼻を鳴らしているが
「噂の捨て子の薬丸が今度はアイドルか。俺も行く。」
意外にも乗った。副主将の大平獅音が珍しいなと呟く。
「賢二郎の事だから自分は行かないって言うと思ったけどな。」
「本当に店にいるのがあの薬丸なら工と鉢合わせると口喧嘩を始めて面倒なので。」
「あの子今は名前が違うって話じゃなかったか。」
「いちいち今の名前なんざ覚えてません。」
「そ、そうか。」
苦笑する大平の一方で山形隼人が言った。
「じゃー着替えたらよってみっか。営業時間内だといいけどな。」
「ダイジョブだよ隼人君、結構遅くまで開いてるから。」
「無駄レベルのリサーチぶりだな。あ、携帯どこ行った。」
「またですか山形さん、因みにそこにありますが。」
「わりぃな賢二郎、さんきゅー。」
そんな会話がなされる中で天童はフヒヒと笑う。
「若利君はどーすんの。」
見上げてグリグリと大きな目を動かすチームメイトに牛島は言った。
「同行する。」
「やっぱ気になるんだ。」
「その後も怪我はしていないか見るだけだ。」
「気にしてるんじゃん。」
「していない。」
「はいはい。」
不穏なのか何なのかよくわからない状況が近づいていた。
続く