第19章 【初めてのアルバイト】中編
どうやら先に来た客と知り合いらしく、既に美沙の事を聞いていたらしい。今時珍しい雰囲気だと言われた。今日日の連中はどうにも派手で落ち着きがないとひとしきり愚痴ったところでしまいめに孫の嫁に貰いたいとまで言い出されて美沙は慌てる。義兄の力がいないのは幸いだ。いたら絶対に目が笑っていない笑顔を浮かべるに決まっている。客は笑いながら買い物を始め、気づけば美沙も自然に笑いながら会計をしていた。
「ありがとうございましたー。」
店から美沙の声が響く。
「おお、縁下妹が接客しておる。」
田中が呟いた。烏野一行はこそこそと隠れて縁下美沙のバイト状況を見ている、つもりだが黒ジャージや制服でしかもでかい野郎もちらほらいる為正直隠れてない。通りすがりが時折この集団を不審げに見ているが美沙の義兄力は勿論澤村ですら今回は見えていないふりをしている。
「あ、またお客さん来ました。」
谷地が言った。
「いらっしゃいませー。」
客が店に入るとまた美沙の声が聞こえた。
「声は頑張ってんな。」
木下が言うと成田が頷く。
「もともと声は通るからな、美沙は。」
力は呟いて隠れている所から身を乗り出した。どうにも気になってしょうがない状態だ。
「力、店ん中入ろうぜ。美沙の声だけきーててもしょうがねえぞ。」
「西谷、こんなゾロゾロ行ったらお客さんがビックリするって。それに美沙ちゃんも困るだろ。」
アワアワしながら東峰が西谷に言うと菅原がんー、と言う。
「縁下以外で誰か行ってきたら。」
「何で俺は外されるんですか、菅原さん。」
「だって今縁下が行ったらふぎゃああってなって美沙ちゃん仕事になんないだろ。」
「人変えても同じな気がしますが。」
「そうだな、時間区切ってバラで行こう。最初は誰行く。」
「大地さんっ、話進めないでください。」
だがしかし澤村はまたも笑って力の抗議を流すという手に出た。