第18章 【初めてのアルバイト】前編
という訳でその日美沙は義母に話をしていた。意欲的に美沙を引き取り何気に過保護な義母はかなり考えたが養女がろくに外に出ない事もあったのか自分はいいけどお父さんも帰ってからねと言った。
「うん、わかった。」
美沙は頷き、義父が帰ってくる夜を待つ事になった訳だがもう1つ気がかりがあった。
勿論気がかりといえば彼である。
「バイト。」
「うん。」
「お前が。」
「うん。」
夜、美沙は義兄である縁下力の部屋にいて着替えながらいちいち聞いてくる義兄に頷いていた。
「どれくらい。」
「ひと月。」
「あの子の親戚んとこで接客だって。」
「うん。」
「人見知りによく頼んだもんだな。」
「他はみんな都合悪いて断られたって。」
「ふーん。」
一通り聞いた義兄の力はそういいながらTシャツを頭からかぶる。
「断って。」
義兄のベッドに座っていた美沙は横にバフっと倒れた。芸人でもあるまいにどうにもこいつはそういうところがある。
「何でっ。」
程なく美沙はガバァッと起き上がって叫んだ。
「不安要素しかない。人見知りで普段も出不精の世間知らずに勤まるのかって心配と変なのに絡まれるリスク。」
「いやあの兄さん。」
「何気にお前他校にも顔知られてきてるし。」
「せやけど(そういうけど)」
美沙は言った。
「お父さん達のオッケーはもうもろてるよ。」
今度は力がずっこける番だった。
「何でだよっ。」
「知ってる人のとこやし、今日日それくらい経験ないと困るやろって。」
答える美沙に対し力は片手で顔を覆いながら立ち上がる。
「まさか母さんもオッケーするとは思わなかった。」
「兄さん」
「俺は反対だからな。」
「いやあの兄さん」
「んじゃ飯食ってくる。まだあの子にオッケーの返事は出すなよ。」
「ちょお兄さん。」
しかし義兄は耳を貸さずに行ってしまう。後に残された美沙はそんな義兄の姿を見送りながらポツリと呟いた。
「お父さんらより兄さんの方が難関やったか。」
まったくそのとおりであった。