第16章 【どうしてこうなった】中編
「別に何もんでもないですその辺におる只の動画投稿者ですうううう。」
動揺してキャラ崩壊した縁下美沙は関西弁イントネーションを隠せないまま普段は使わない語尾で叫んだが例によって動画投稿者って只者なのかと知らない人に突っ込まれてしまった。
「なるほど。」
美沙は極々小さく呟く。
「武田先生、つまり終わるまでこないして耐えろという罰ですかさよ(左様)ですか。」
今日日"さよ"という関西弁を使う高校生がいるかどうかは置いておいてそうとしか思えなかった。
「先生、あれ良かったのか。無理矢理ねじ込んで縁下妹留め置かせてもらってよ。」
「まさか美沙さんが向こうのチームでああも人気者とは思いませんでしたが、これであの子も次はお兄さんを追っかけてすっ飛んできちゃったりしないでしょう。」
「お、おう。」
だがしかしその後事件は起こる。
何だかんだありつつも両チームともウォーミングアップは滞りなく進んでいた。進んでいたはずだった、及川がちょくちょく美沙を見ては見た見た俺凄いでしょみたいな態度をしなければ。縁下美沙が来る以前なら烏野側で田中や西谷あたりが威嚇しようとして澤村かそれこそ縁下力にぴしゃんとやられるので済んでいただろう。だがしかし、縁下力が関西弁でビビリの義妹を溺愛している現在では話が変わる。
それは及川がもう何度目かの美沙にどや顔を見せた時だった。ギュインとものすごい勢いでボールが飛んできた。それは及川の顔すれすれを通った。ギョッとした及川は思わず叫ぶ。
「ちょっ岩ちゃんいつもと違って危ないよっ。」
しかし岩泉はキョトンとしている。
「いや俺じゃない。」
確かに岩泉はボールを用意したままの体勢だ。ぶつけるつもりはあったらしい。
「じゃあ誰。」
及川が呟くと誰かが近づいてきた。
「すみません。」
縁下力である。顔は笑っているが目が笑っていない。気づけば後ろから彼を見守る烏野の連中の多くが顔を青くしていた。
「スパイクミスしちゃって。」
青葉城西側もいやあれそーゆー問題だったかとヒソヒソ言い合いやはり顔色が悪い。