第3章 ・瀬見英太は気にしてる
とりあえず大丈夫かこいつらな状態でスタートした牛島若利とその義妹、文緒であるが既にそれはバレーボール部の仲間をきっちり巻き込んだ。チームの3年のうち即刻その影響を受けたのは瀬見英太である。
とある昼休み、渡り廊下でボフッという音が響く。
「うぉっ。」
「あっ。」
瀬見は誰かとぶつかった。
「あああっ、申し訳ありませんっ。」
「いや、俺こそ。」
制服のシャツを整えながら瀬見は随分かってぇ喋り方だなと思う。みれば相手は噂の編入生だ。
「お前、若利んとこの。」
「あ、兄をご存知ですか。」
「ご存知も何も一緒のチーム。俺、瀬見英太。3年でセッター。」
「これは申し遅れました、1年の牛島文緒です。兄がお世話になっております。」
「よろしく。」
「こちらこそ。」
あまりにご丁寧な物言いにどこのお嬢さんだよおいと瀬見は思うがすぐに似たようなもんかと思い直す。
「つかぶつかったけど平気か。」
「お気遣いありがとうございます、ご心配には及びません。考え事をしておりましてうっかり。」
「若利のことか。」
「いえっ、あのっ。」
一応否定する文緒だが態度がはいそうですと言っているも同然だ。
「あいつ悪い奴じゃないけど難儀だろ、ドストレートのド天然だし。」
「ド天然。」
文緒が呟く。
「顔が笑ってんぞ。」
「そっそんなっ。」
「事実だから笑ってもいいと思う。で、何か悩んでんのか。」
「その、」
文緒は俯く。
「兄様が私をどう思っているのかが全くわからなくて困ってます。」
兄様て呼んでんのかと瀬見は吹きそうになったが文緒が真面目なので何とか我慢する。
「お帰りになる度に話してみるのですがろくに会話が続かないんです。私は確かに話題に乏しい方ですがしかしあまりにも会話が細切れでして、語彙(ごい)が貧弱なので嫌がられているのか特に何も考えておられないのか見当もつきません。」
瀬見は何となく想像がついてしまった。
「多分だけど」
「はい。」
「若利は何も考えてない。」
どーんっという効果音を背負っているノリで瀬見は言った。