第3章 ・瀬見英太は気にしてる
「うちのチームに天童っていううるさいのがいるんだけどそいつとTVの話をしてる時でも見てないとか知らないとかばっかり返してっから。天童は構わずにわーわー喋るタイプだから問題になんないけどな。」
「そうですか。」
「細かい事情はよく知らねーけどまだ妹になったばっかだろ、諦めんのは早いぞ。どうせなら天童みたいに構わず喋るくらいの勢いで行け。」
俯いていた文緒がパッと顔を上げる。
「ありがとうございます、瀬見さん。そうしてみます。」
そうして文緒はにっこり笑った。お、笑ったと瀬見はついその顔を見つめる。
「お、おう、頑張れ。」
「はい、失礼します。」
文緒はパタパタと向こう側へかけていく。瀬見は何となくその後姿が見えなくなるまで見送っていた。
「若利はダメだな。」
その日の部活の時に瀬見は言った。
「いきなりどしたの、英太君。」
「妹の面倒見るって点ではからきしだな。」
「まー若利君だからね。それでもどしたの。」
「何だって初対面の俺が若利の妹の悩み聞いてやんなきゃいけねーんだよ。」
「へー、そんな事があったのねん。早くも波乱の予感。」
「波乱てなんだよ。」
「いやぁついでに若利君と文緒ちゃん取り合うみたいな流れになったら俺的には楽しい。それこそTVみたいじゃん。」
「天童、蹴っていいか。」
「おーこわ。」
へらへらしながら逃げる天童に瀬見はため息をつき、ちらと向こうに見えるエースの背中を見つめる。気配を感じたのか牛島若利は振り返って瀬見を見返した。
「どうかしたのか。」
どうかしたもへったくれもあるかよと思った瀬見は面と向かって言った。
「どっちが兄貴なんだかわかんねーわ。」
「何の話だ。」
「そんままだよもうちょいお前妹に関心持てよ。しばらくはフォローしてやるけどよ。」
若利は首を傾げる。そろそろ監督の鷲匠に怒鳴られそうな予感がしたので瀬見はそのへんで話を切り上げた。
次章に続く