第19章 ・遭遇
「お待たせ岩ちゃん、行こっか。」
「おせーんだよ、このっ。」
「痛いっ、ぶたないでっ。じゃあね、文緒ちゃんバイバーイ。」
ヒラヒラと及川が手を振り、岩泉もじゃあなともう一度呟く。そんな2人を文緒は頭を下げて見送り、しかしその後何だかよくわからないモヤモヤした心持のまま帰宅したのだった。
文緒が帰宅している間の事だ。
「まさかウシワカにあんな妹がいるとはな。」
歩く道すがら岩泉が呟いた。
「兄様だってさ、どんだけウシワカちゃん好きなの。」
及川はクスクスと笑う。
「まあ兄妹でいがみ合ってほしい訳でもねえけどよ。」
「それよりウシワカちゃんが文緒ちゃん溺愛してるのが意外。」
「それな。1人でウロウロすんなとかどんだけだよ、またあの妹と来たら。」
「文緒ちゃんも天然な分鈍いのかなぁ、愛されてる事に気づいてないんだねきっと。ざまぁ、ウシワカざまぁ。」
「みっともねーこと抜かすな。」
「だって腹立つじゃん、家に帰ったら文緒ちゃんみたいな妹がいてさ、兄様って呼んでくれるとかさ。しかもあんなしかめっ面のウシワカちゃんにだよ。ああもうっ、羨ましいっ。」
「おいおめー、まさかウシワカ妹気に入ったのか。」
本当にまさかと思いつつ岩泉が尋ねると及川は無駄に真面目くさった顔で言った。
「凄く。」
たちまちのうちに岩泉はブチッときた。
「黙れこのヤロ真顔で抜かすなっ、そこの植木のこやしにすっぞっ。」
「だって何かいい感じだったじゃんっ、古めかしいけど控えめで真っ直ぐそうでさ。」
「ああ、ひねくれもんのおめーとは正反対だもんな。」
「何て扱いっ。」
「今度ウシワカに出くわしたら言っとくわクソ川って変態が妹つけ狙ってるって。」
「ちょっと、俺を不審者にしないでっ。」
「予備軍だろがくそったれ。」
幼馴染み達はその後もしばらくわあわあ言い合っていた。
そして自覚のない鈍感な義妹は何も知らずに今日の事を兄様に話したら何ていうだろうと買った本を読みつつもぼんやり考えていた。
次章に続く