第19章 ・遭遇
その時文緒はやはり1人で下校していてしかも珍しく寄り道をしていた。義母や祖母に遠慮して控えていたのだが逆に義母がほぼ家と学校の間しか往復していない養女を見かねて余程遅くならないのならたまにはどこかによっても構わないと言ったのである。
どうも文緒を1人でウロウロさせたくないらしい義兄の若利が聞いたら嫌な顔をするかもしれないが文緒だって一応は1人の人間である、この際そこは置いておくべきだろう。
そういう訳でお言葉に甘えようと思った文緒は学校の帰りに本屋に寄ったりなどした。ふと内田百閒の本が並んでいるあたりに来てとある本に目をとめる。ご馳走帳だなんてなかなか面白い題だなと思いついつい手にとって買ってしまった。
本屋を出て歩いていた時である。向かい側を男子の二人組が歩いていた。片方の顔を見て文緒はあれは、と思う。先日月刊バリボーで見た青葉城西の及川徹だ。その相棒岩泉一もいて、文緒はそっちも月バリに載っていた写真を思い出す。いずれにせよ及川を見てご本人も綺麗だなぁと文緒は思うがやはり及川を景色と同等に見ている節がある。つまり景色を眺めているノリでぼんやり彼らを眺めていたら及川と目が合ってしまった。いけないと思って文緒は視線をそらし通り過ぎようとしたがもう遅い、及川が岩泉の制止も聞かずにこっちにやってきた。残念ながら足の長さは如何ともし難い。
「そっこの君ー、俺に何か用。」
「いえ、あの」
「あ、もしかして俺のファン。」
たちまちのうちに固まる文緒、そこへ岩泉が割って入る。
「このクソ川っ、無茶苦茶困ってるだろーが誰彼構わず声かけんじゃねーよっ、だからフラれんだっこのグズっ。」
「人のトラウマえぐるなんて岩ちゃんひどいっ。」
「知るか。それよりそこの奴、悪いなうちの馬鹿が。」
「いえ、こちらこそ失礼いたしました。月刊バリボーでご尊顔を拝したようなと思いましてつい。」
頭を下げる文緒に及川がおお、といった様子を見せるが文緒本人は気づいていない。
「何か物凄くご丁寧なお返事が来たよ、岩ちゃん。」
「おいお前、こいつにんな丁寧に接する必要ねえぞ。勿体ねえから。」
「ちょっと岩ちゃんっ。」
顔を上げて文緒はクスクス笑う。