第17章 ・月刊バリボー
その日は休日で珍しく若利も練習が休みだった。丁度時刻はおやつどき、文緒は折角だからと茶を淹れ菓子も用意し若利の部屋に運んでいた。
「兄様、文緒です。」
義兄の部屋の前で文緒は呼びかけた。
「入るといい。」
「失礼します。」
相変わらずお前らは上司と部下かと突っ込みたくなるがそっとしておこう。ともあれ文緒はそろりと茶と菓子を乗せた盆を持って若利の部屋に入る。
「兄様、お茶をお持ちしました。」
「ああ。」
ぶっきらぼうに言う若利は何やら雑誌を読んでいて文緒は珍しいと思いつつ、側に正座して盆を傍らに置く。若利の手にしている雑誌の表紙には月刊バリボーとあった。なるほどそれなら義兄が読んでいても不思議はない。好奇心に駆られた文緒はそろりと横から覗き込んでみた。若利が特に叱らないあたり好きにしろと思っているのだろう。開いていたページにはあの青葉城西の主将にしてセッターである及川徹の写真が載っていた。
「あら、綺麗な方。」
文緒は思わず呟く。字面だけなら及川が喜ぶかもしれない。だが文緒の口ぶりは観光地のチラシを見て綺麗な景色だと言っているのと同じである。
「青葉城西のキャプテンでセッターですか。しかも全国クラスとは、兄様もですが専門誌に載る方は流石ですね。」
コメントする文緒に若利はやはりああと低く呟いて付け加える。
「実力は申し分ない。しかしいる場所の選択は誤っている。」
「兄様、つまり。」
「及川はそのチームの最大値を引き出すのに優れている。だが青葉城西そのものは弱い。限度がある。」
文緒はええと遠慮がちに呟く。バレーボールの事を深く知らない者には返しづらい話だった。しかしふと烏野の日向の顔が思い浮かぶ。
"ぜってー勝ぁつ"
あの時の日向、バレーの事は分からずとも本気だったのはわかる顔だった。
「あの、兄様」
おずおずと文緒は呟いた。
「土壌は改善される事もありますから一概には言えないような気が」
「知った風な口をきくな。」
茶が一気に冷めるかと思った。いつになく厳しく若利にかぶせられ最後まで言わせてもらえない。しばしの沈黙の間文緒は地雷を踏んだらしいと思う。