第12章 ・瀬見英太のお節介とその他
「瀬見さんはどうしてそんなに私を気に留めてくださるのですか。」
瀬見は一瞬ビクリと体を震わせてうっと唸った。
「若利がお前に対してあまりにアレだからほっとけなくってよ。」
当たり障りなく言って瀬見がごまかしたことを文緒は気づいていない。
「でもまーちっとは進歩したな。」
「瀬見さんもそう思ってくださいますか。」
「おう。あいつの事だからお前には言ってねーんだろうけど、何気にお前の事気にしだしてるのがわかる。こないだお前が山形のケータイ持ってきた時にボール飛んで来たじゃん。」
「はい。」
「あれでかなり怒ってた。」
「え。」
「山形に次はケータイ忘れるなって。忘れて妹が怪我する方向になったらゆるさねーってさ。」
文緒は文字通り飛び上がった。まさかあの若利がそんな事を人に言うとは想像もしない。
「確かに家に帰ってから、実際は3-3の方に押しつけられた格好で届けに行った事を話しまして何だか妙な顔をしてましたがそういう話にまで発展していたとは知りませんでした。」
「その場にいた俺らが一番ビビったわ。まさか若利が妹一番ですみたいな発言するって思わないだろ。」
「私ですらそう思います。」
「ったく、世話の焼ける新米兄貴だ。」
「お手数をおかけします。」
「いーけどよ、何気におもしれーし。天童は気をつけないと余計な事に発展させそうだけど。」
ここでふと瀬見は言葉を切る。文緒は話が一段落したのだろうとばかり思っていたが瀬見が空になった紙パックをグシャッと握りつぶしたので一瞬驚いた。そんな文緒に瀬見はポツリと呟く。
「ホントに」
「はい。」
「ホントに辛くてでも若利に言えないなら俺に言えよ。今みたいに聞くだけは聞いてやるから。」
瀬見は切なそうな顔で文緒を見る。その片手が一瞬文緒の方に伸ばされしかし途中で引っ込められる。
「瀬見さん。」
疑問形で呼びかける文緒に瀬見ははっとしたような顔になった。
「いや、何でもねぇ。とりあえずお前危ねーんだよいいか何でもかんでも黙って我慢すんじゃねーぞわかったか。」
「は、はいっ。」
それこそまるで兄のように言う瀬見に文緒はつい勢い良く返事をしたのだった。
次章に続く