第8章 ・義兄は愛されている
「そうか。」
対する若利はやはりさらりと言った。
「側にいたがるくらいにか。」
「はい。」
正直に答える文緒に若利はやはり首を傾げる。
「俺はまだお前についてはよくわからない。」
「はい。」
「ただ、今の所話し相手としては悪くないと思っている。」
「それは何よりです。」
「近くにいたいなら好きにしろ。お前を理解するには時間がかかるがそれまで待て。」
淡々と言う若利、表情はやはり一見変わっていないように見える。しかし文緒は笑った。
「はい、兄様。」
後日、白鳥沢学園高校男子バレー部ではこんな会話があった。
「愛だな。」
山形が言った。練習の合間の休憩時間の事である。
「愛ですね。」
川西も同意する。
「愛なんですか。」
五色が尋ね、白布がお前なと言う。
「あの妹が牛島さん大好きってわかってて何でそんな返しになるんだよ。」
「だってよくわからないです。」
「工は一歩間違えると若利と同じコース辿りそうだな。」
「エースって事ですか、山形さんっ。」
「うん、お前に言った俺が馬鹿だった。」
きっぱりはっきり言う山形、ここで瀬見がそれよりよ、と口を挟む。
「いきなり俺の事好きかって面と向かって言う奴があるかよ。」
チロリと瀬見に見られた若利は首を傾げる。
「気になったから聞いただけだ。」
「若利君、相手が文緒ちゃんで良かったね。」
ニヤニヤする天童の側では大平がうんうんと頷いている。
「愛されてるな、若利。」
「そうなのか。」
やはりよくわからないと呟く若利に瀬見が渋い顔をした。
「お前ある意味馬鹿だろ。まぁ今からでも関わろうとしてるんだからいいけどよ。」
「英太君てば随分文緒ちゃん気にしてるネー。」
「おい誰か天童押さえろ、腹に一発ぶち込む。」
「ちょっとやめてっ、誰か英太君止めてっ。」
「瀬見さん、俺が押さえましょうか。」
「賢二郎がまさかの結託っ。」
「大平、あれは何だ。」
「だいたいお前のせいだよ、若利。」
次章に続く