第8章 ・義兄は愛されている
という訳で牛島文緒はまた遅く帰ってきた義兄の若利と夕食を共にし、その後若利の部屋に呼ばれて彼の話し相手をするのだった。
「瀬見とは親しいのか。」
正座して文緒を見つめる若利、その図体と妙な落ち着きぶりのせいで兄ではなく父親みたいであり向かい合って正座する文緒は小言を食らう寸前の娘みたいに見える。天童辺りが見たら腹を抱えて笑うかもしれない。
「どういう訳かお会いする事が多くて。しかし何故に。」
「お前の事を結構把握している風だった。廊下で何やら歌っていたとか。」
たちまちのうちに文緒は動揺する。正直ぎゃあああと叫びたいが少なくともこの義兄の前ではそうはいかない。
「特に口止めした訳ではありませんがそれでも瀬見さんから兄様に伝わるとは。」
「俺に知られるとまずいのか。」
「呆れられるリスクは多少考えてました。」
「少し驚いたのと年齢にそぐわないとは思うが問題はない。」
「それを聞いて安心しました、兄様。」
ほっとする文緒を若利はじっと見つめている。
「瀬見には何かと話しているようだな。」
「飾らない方なのでつい。」
文緒が答えると若利は沈黙して何とも妙な雰囲気を醸し出した。顔には出ないのではたからはわかりにくいが文緒は兄様が悩んでるような気がすると思う。
「そうか。」
しばらくして若利は息を吐いてそれだけを言い話を変える。しかし、
「お前は俺が好きなのか。」
若利クオリティは半端ではない。直球且つ豪速球の問いに文緒はたちまち動揺してまた叫びそうな心持ちになる。
「兄様、な、何を。」
何とか叫びをこらえて呟く文緒だが顔が熱い。
「五色が言っていた。」
五色君は一体何の話をしてたのと文緒は思った。五色も大概直球な奴だ、場合によっては放置しとくと大変な事になるだろうに誰かこの直球天然組を止める奴はいなかったのかと突っ込みたくなる。
「その、確かに、嫌いではありませんが。」
「はっきり言え。」
う、と文緒は唸る。そのつもりはないのだろうが若利の圧力が凄い。しかしはっきり言わなくてはこの義兄に伝わらない。
「兄様としてお慕いしてます。」
ブルブル震えながらも何とか若利に目を合わせて文緒は言った。