第53章 ・思い、請い、誓い、そして
牛島家にて義兄妹の声が聞こえる。
「支度出来たか。」
「もう少しお待ちくださいな。」
文緒は言いながらほんの少し帽子の角度を直す。
「出来ました。」
「そうか。行くぞ。」
「はい。お母様、お祖母様、行って参ります。」
「行ってくる。」
母と祖母に声をかけて義兄妹は家を出る。保護者達は妙ににこにことしていってらっしゃいと2人に言い、彼らが出て行ってから顔を見合わせていい感じに進んでいるといった事を話していた。
そんな事は知らない義兄妹は駅に向かって歩いていた。片方はノシノシと片方はポテポテと対照的な歩き方をしているのは少々笑えるかもしれない。
「良い天気ですね。」
「ああ。」
「少し暑いくらいです。」
「そうか。」
相変わらず盛り上がらない会話をしてしばし兄妹は黙って歩く。ノシノシポテポテと歩く2人は手に花やら何やらと荷物を持っていた。
「それにしても兄様が一緒に来られるなんて意外です。」
「そうか。」
「てっきり関心を持たれないと思っていました。」
「お前を1人で行かせる訳にはいかない。」
「お母様がご一緒の予定でしたが。」
「機会を捉えただけだ。2人で外に出る事があまりないからな。」
「それにお昼間ですよ。」
「向こうは場所柄おそらく人が少ない。最近新聞で幼い子供が胡乱な奴にさらわれかけたというのを見た。油断は出来ない。」
若利は本気で心配しているのだろうがこれは難のある表現だった。
「兄様、」
困惑して文緒は言う。
「つまり私は幼子(おさなご)だと。」
「実際歳より幼く見えるだろう。」
「見た目は仕方ありませんが何となく納得がいきません。」
「天童から聞いたのだが」
若利がそう言った瞬間、文緒は直感的にまともな事じゃないと思った。
「どうやらお前はロリというものに分類されるらしい。」
「何て事。」
思った通りまともではなかった。しかも一度条善寺の照島にロリちゃんと呼ばれた立場としてもたまったものではない。
「私は文緒です。ドローレス(Dolores)ではありません。」
頭を抱えながら文緒は言う。