第47章 ・はしゃぐ義妹
とは言うものの結局の所、文緒が文芸部に入ったのはプラスの方が大きかったようだ。
若利が帰宅した時の事である。
「兄様兄様、聞いてください。」
いつものように若利を迎えるがいつもより珍しく興奮した様子の文緒に若利はおやと思う。ただでさえ実年齢より幼く見える義妹がパタパタとしている様を見て若利はいつもの仏頂面を崩さないまま縞栗鼠が跳ねているのを連想した。笑ってはいけない。
「どうした、随分興奮しているようだが。」
尋ねると義妹はこれまた珍しくガバッと若利の腕の中に飛び込んできて大変嬉しそうに言った。
「文芸部の中に例の創作小説のSNSに参加されている方がいたんです。」
「そうか。」
「お互いそちらでは知らなくて関わりがなかったのですがわかった途端に盛り上がりまして」
「そうか。」
「リアルでお友達になりました。」
「そうか。」
若利は危うくそのまま流しそうになってふと気がつく。この辺りは僅かながらも成長したといえよう。
「少し安心した。」
「と言いますと。」
「長らくお前に校内で友ができないものかと気を揉んでいた。」
「そうでしたね。」
「仮にもお前の兄になった。過保護呼ばわりされているのはともかく妹が孤独なのを平気ではいられない。」
過保護呼ばわりされているのを置いておくのは如何なものか。実際文緒は内心でいや過保護だからと思っていたが勿論若利はまるで気づかない。
「つまり兄様も嬉しいという事ですか。」
「そうだ。しかし」
若利は言ってそっと腕の中の文緒の頭を撫でた。
「まずは1度離れろ。荷物をおいて着替える。」
「ああっ、申し訳ありません。」
気がついたのか文緒は顔を真っ赤にしババッと若利から離れる。そこまでしろとは言っていないのだがと若利は思う。
「続きは夕飯の後に聞く。」
「はい、兄様。」
文緒は微笑んだ。