第36章 ・牛島兄妹、留守番をする その4
嬉しそうに文緒は微笑み、眠気が襲ってきたのか目を閉じる。その顔を見てああと若利は思う。また胸の内に何かが込み上げてきた。熱いと感じる。何かに似ている。烏野のヒナタショウヨウがすっ飛んできたボールを自分から高速で奪いとり宣戦布告をしてきた時のあの何とも言えない高揚感が一番近い。でもそれとはもうほんの少し何かが違う。若利は考えた。何が違う、俺はこんな感覚を知らない。
「文緒。」
「はい、兄様。」
目を閉じたまま眠気を含んだ声で答える文緒に若利の中で何かが弾け飛んだ。
次の瞬間響いたのは文緒のうぐと唸る声、そして感じたのは互いの唇が重なる感触だ。驚いた文緒が目を見開く。逆に若利は目を閉じたままそんな義妹の頭を両手で押さえて離さない。しばらく若利はそのままでいる。今度こそ後戻りは出来ないしするつもりもない。こいつは俺のものだ。俺の妹であり更にもっと愛する者だ。ずっと側にいてほしい、俺が帰れば笑って迎えてほしい、俺の事を呼んでほしい、俺の腕の中にいてほしい。
狂おしいとはこの事か、若利は衝動が赴くままに何度も義妹と唇を重ねる。文緒は苦しげに息をしながらも逃げようとはしない。
「にい、さま。」
もう何度目かの所で文緒が小さく若利を呼んだ。
「愛している。」
若利は呟いてもう一度義妹を抱きしめ直した。
「私もです、兄様。」
文緒は言って顔を若利の胸のあたりにすり寄せる。しばらくそうしてから文緒は伸び上がる。首筋の辺りに義妹の唇が触れるのを感じた。伸び上がっても届かなかったのだろうが十分である。
「今度こそ戻れない。覚悟しておけ。」
「今更戻る必要があるでしょうか。」
愛らしくも弱くはない義妹が言う。
「どうしてもの時までご一緒いたします。」
「ああ、そうだな。」
そして兄妹はそのまま抱き合って眠りにつく。
狙ったようなタイミングでその日は満月だった。
次章へ続く