第35章 ・牛島兄妹、留守番をする その3
訳のわからない状況—実はとばっちり—を受けた文緒は夜、若利が帰ってくるのをいつものように待っていた。宿題やら予習やらは終わった、夕飯は準備済、洗い物も現在可能な範囲でやっておいた、乾いた洗濯物も片付け済である。とりあえず昼以降にあったいきなり他所からの嫁呼ばわりはどうも義兄が噛んでいる気がしてならない。聞き出さなくてはと思う。
ガラケーが振動したのは自室のノートパソコンで例の創作小説のSNSでやり取りしている相手にメッセージの返信を打っている最中だった。開いてみると受信メールが一通、差出人は義兄の若利である。
"学校を出た。"
愛想もへったくれもない。あの無表情で黙々とメールを打つ義兄の姿が容易に想像出来た。
「という事は」
文緒は独りごちる。
「もうしばらくしたら帰ってくるよね。」
メッセージへの返信を打ち終えるのは困難と判断したはいいが文緒は書きかけの文面をどうしたらいいんだろうと思う。前にウェブブラウザ上で書きかけを置いておいたら運悪くパソコンが強制終了し、打った内容が全部吹っ飛んだという悲劇に見舞われた事がある。ほんの少し考えて文緒はマウスを動かした。メモ系のソフトを起動、書きかけの文面を全部コピーしてソフトに貼り付け、名前をつけてパソコン内に保存する。つまりテキストファイルにしたのである。返信しようとしている相手から自分はそうしていると教えてもらったのを思い出したのだ。そうして書きかけを保存してガラケーを手に取り、今度は若利に返信した。
"承知しました、お気をつけて。"
こいつはこいつで上司にメールしてるのかと突っ込みたい文体だ。兄妹そろって困ったものであるがおいておこう。