第5章 ・五色工は認めてる
牛島文緒は高等部の1年4組に編入した訳でつまり五色工と同じクラスになった。ただでさえ姓が牛島という事でクラスはざわざわした訳だが五色工に至っては加えてソワソワした。というのも牛島文緒は五色の隣の席になったのだ。牛島さんの妹になった奴、そう思うだけで五色は本能的に落ち着かない。
「おお、おい、お前。」
文緒が編入してきて数日後の休み時間、五色は初めて文緒に話しかけた。隣の席になったにも関わらず編入してきてからまだ一言も話していなかったのだ。(兄様呼びをはたで聞いていて笑い転げたにも関わらず。)悪い奴ではなさそうだがほとんどの場合大人しくしていてどこかお堅い所が近寄りがたい。五色としてもどうすればよいかしばらくわからなかったのである。
それはともかくクラスの連中が反応してとうとう五色が話しかけたぞと言い合うが当の五色は聞こえていない。
「はい。」
机にしまおうとしたらしき教科書を握ったまま牛島文緒はビクッとする。
「お前、本当に牛島さんの妹なのか。」
無駄に緊張して五色は今更聞かんでもいいことを口走るが文緒は不思議そうにするも
「本当に妹になった。」
頷いて普通に答える。
「な、何で。」
本当に聞きたかったのはそこではない。牛島さんって家でも練習してるのかといった事を聞きたかったのだ。しかし流石の五色もいきなりそこに切り込むのは気がひけた。しかも五色は文緒を見て緊張していた。チームの先輩であるリベロの山形隼人は文緒を普通だと評していたし、実際絶世の美少女という訳でもないのにそうなったのは文緒の今時でない大人しさと全体的な繊細さのせいかもしれない。
「お母さんが早くに病気で亡くなってお父さんが頑張ってくれてたんだけど無理が祟ったのかな、やっぱり先に逝っちゃった。」
静かに語られる重い事情に五色は胸が痛んだ。聞くんじゃなかったと若干後悔する。