第33章 ・牛島兄妹、留守番をする その1
ある日の朝、白鳥沢学園高校男子バレーボール部部室での事である。
「え、留守番。」
天童が声を上げた。
「ああ。」
若利は頷く。
「母さん達が旅行に出かけることになった。」
「てことはぁ、しばらく文緒ちゃんと2人きり。」
「そうだ。」
はたで話が聞こえていた瀬見がピクリとするが若利は気づかず、逆に天童がそれを目の端に捉えてニヤニヤする。が、瀬見に睨まれておっと、という顔で話に戻った。
「へー、そっかぁ、文緒ちゃんとねぇ。」
「そんな、男女2人きりとかふ、不謹慎ですっ。」
叫ぶのは五色である。顔が赤い。
「何がだ。」
若利は首を傾げた。
「文緒は妹だが。」
踏み越えておいてさらりと抜かす若利だが決してバレないように芝居をしている訳ではなく、まず文緒は妹だという意識が素で働いている。
「お前一体何想像したんだよ。」
「だ、だって。」
白布に突っ込まれて五色はますます顔が赤くなる。
「兄妹つってもその、」
「あ、わかる。義理の兄妹だもんね、色々想像しちゃうよね。」
ニヤニヤする天童はguess(ゲス)ではなく本当の下衆の顔であり、白布が嫌な顔をする。慌てた大平がそれにしてもと口を挟んだ。
「大変そうだな。練習の方はいけるのか。」
「問題ない。文緒の方が先に戻る。家のことはそれなりにこなすだろう。」
「でも若利が戻るまでが心配だな。」
「女子が1人ですもんね、それもボケボケお嬢様の文緒さん。」
「太一、お前最近一言多すぎるぞ。」
「でもさ賢二郎、否定できる余地あるか。」
「ぐ。」
珍しく白布が唸ったところで部室の扉がコンコンと叩かれた。
「誰だ珍しい。」
近くにいた山形が扉を開けに行く。するとそこには
「失礼します。」
牛島文緒その人がいた。何やら包みを抱えている。
「あら、おはようございます山形さん。」
「おはよーさん、噂をすれば何とやらだな。」
「噂とは。」
「や、こっちの話。で、若利に用か。」
「はい。」
山形は若利、妹来たと呼ぶ。呼ばれた若利は妙に高速で移動した。