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【ハイキュー】ウシワカイモウト

第29章 ・人形ではない


そうして扉を開けると薄暗い義妹の部屋、モダンなスタイルから今出来(いまでき)と思われる文机にはノートパソコンとスタンドと本が数冊、箪笥の上には男の子と女の子が一対になっている栗鼠の人形とそれ用の家具類と小物、教科書その他諸々がぎっちり詰められた本棚が薄っすらと見える。

今更ながらあまり義妹の部屋をちゃんと見てみた事がなかったのに気がつく。昨日も用件を済ませてほんの少し文緒に触れた後はさっさと自室に戻ってしまった。もう少しここを訪ねた方がいいなと若利は思った。
義妹については兄妹としてを越える愛を自覚する程度にはわかってきた。それでもまだきっと知らないであろう事を知るにはそうする必要がある。

思いながら更にそっと進んで脇に据えられているベッドに近づいた。
枕元には文緒愛用の携帯型映像機器が専用ケーブルを接続されて充電されている。そういえばこの部屋には掛け時計はあるが目覚まし時計がない。タブレットの小型版みたいなものだと文緒が言っていたこの薄い端末を代わりにしているのか。

さて、布団の方に目をやると盛り上がりが少なかったので一瞬若利は中身が入っていないのかと素で思った。しかしよくよく見るとスースーと穏やかな寝息を立てる文緒がいる。やはりこいつは軽すぎるし薄すぎると若利は思った。
もし布団を顔までかぶっていたら中にいるのか否かわからないではないか。体も弱いようだしもう少し食べるよう進言すべきかそれとも鍛えるよう進言すべきかあるいは両方かと真面目に考えてしまう辺りが若利である。後は薄すぎるなどと他の女子に言ってしまわないことを願うばかりだ。

その間に横向きに寝ていたい文緒が一瞬んーと唸って寝返りを打った。ちょうど顔が上を向く。若利はそっとベッドの側に膝をついてその顔を覗き込んだ。

「まるで」

柄にもなく呟きかけて若利は口を噤む。まるで人形だと思った。着ているものは着物ではなく西洋式の寝間着であるが実年齢より幼い面立ちのせいか市松人形を思い出す。だが、と若利は思った。実際の所こいつは人形ではない。人形が自分を兄様と呼び慕い、笑い、兄である自分の為に出来る事をしたいと言い、時に侮られたと闘争心を見せ、時に1人で外を歩き、自分の言う事に異を唱える事もある。そんな人形があるものか。そこまで考えた時に何かがこみ上げてきた。
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