第27章 ・遭遇 義兄編
「俺にすらわかる溺愛レベルじゃしょうがねーだろ。」
「溺愛。」
若利は繰り返す。
「チームでも言われているがよくわからない。愛しているのは確かだが。」
何も考えずに言う若利の傾向は困ったものである。ただでさえ驚かされた及川と岩泉はピシッと音を立てそうな勢いで固まった。
「岩ちゃん、俺今聞き違いしてないよね。」
「集団ヒステリーでなきゃ間違いねぇだろ。」
「ああ、スマホの録音アプリ起動しときゃよかった。」
「何を驚いている。」
「ほんとお前ら兄妹そのど天然どうにかしろ。聞いてる方が恥ずかしいわ。」
「無関心が酷いと言われるかと思えば今度は溺愛していると言われ、どうしろと言うのだ。」
「おめーに間(あいだ)がねーのが問題だっつのっ。」
まさか岩泉一が牛島若利に突込みを入れることになろうとは誰が思うだろうか。
「もういい、本当に付き合ってられん。」
若利はため息をついた。
「いずれにしろ文緒の事はそっちの知るところではない。」
「へぇ。」
「俺がいる、問題はない。」
「ヤダかっこいー。」
「クソ川、流石にキモイからやめろ。」
及川の後頭部をベシッと岩泉が叩く。
「痛いよ岩ちゃんっ。あ、ウシワカちゃん、悪いけど最後に1個だけ。」
「本当にこれきりだぞ。」
言う若利に及川はへいへいとヘラっとした調子で言う。
「大丈夫だよ、文緒ちゃんは。」
「何。」
「あの子はおにーちゃんの事しか見てないから。」
「唐突に何だ。」
「バレーの事は自信満々、天下のウシワカちゃんが文緒ちゃんの事で何を心配してんのかなって思ってさ。」
若利は一瞬沈黙する。脳裏に浮かんでいるのは瀬見に言われた一言だ。
"泣かせてるようなら俺がかっさらうから。"
「そうか。」
そして少し考えてから若利は呟いた。
「今のについては礼を言う。」
及川と岩泉がコソッと顔を見合わせる中、若利は今度こそその場を去った。