第25章 ・【外伝】 3番と5番のとある会話
白鳥沢学園高校男子バレーボール部の部室での話である。
「英太君さぁ、いつ言うの。」
まだ2人しか来ていない部室にて、唐突に天童から言われて瀬見はハ、と聞き返した。
「いきなり何だよ。」
眉をひそめる瀬見に天童はまたとぼけちゃってーと言う。
「文緒ちゃんの事。好きだって言わないの。」
若利とは別の方向でどストレートに言われた言葉はグサリと瀬見を突き刺す。答えられない瀬見に天童は更に重ねた。
「本気でヤバイんじゃない、若利君愛してるーって自覚しだしてるし。」
「だったら何だよ。若利のこった、兄妹としか思ってないだろ。」
「本当にそう思ってる。」
「おい、天童。」
そろそろぶっ飛ばすぞと言いかけた瀬見はいつになくバレー以外で真面目な天童の顔に言葉が詰まった。
「いつまで逃げてんの、英太君ともあろう人がさ。」
「うるせぇよ。」
瀬見は唸った。
「言える訳ねーだろ、文緒は若利の事しか見てねぇのわかってんのに。」
「お、正直になったね。」
「外堀埋めといてよく言うわ。」
急に態度を変えてへらっとなる天童を瀬見は睨むが当の天童は動じない。流石というべきか。
「文緒は」
ゴスッとロッカーに額をぶつけながら瀬見は呟く。
「あいつは自分じゃ若利を兄貴として慕ってるんだって思い込もうとしてる。」
「うん。」
「でも外から見てたらわかる。あいつはもう」
「うん。」
天童が頷いて珍しく静かに聞いている中、瀬見の頭がズルズルと下に下がっていく。額がロッカーの扉にこすられていく事に構わないままだ。
「そうだね。愛が行き過ぎて線踏み越えてるよね。」
声に出せなくなった瀬見の言葉を天童が恐るべき的確さで代弁した。
「若利君も時間の問題かな。」
「そうだな。」
瀬見は血を吐く思いで認める。そう、もう時間の問題だ。きっと若利は少しずつでも文緒への愛が兄妹としてなのかそうではないのかを自覚していくだろう。
「おちょくったのは流石に悪かったね、ごめんよ英太君。」
「お前だってここまで深刻になるって思ってなかったろ、別にいい。」
暗い顔をする天童も珍しい。瀬見はよせよと呟いた。