第6章 アヒルの中で
「…ね。もうそろそろ戻ろっか。もうウチ、帰ろ?」
「え?でも、まだ全然明るいよ。もうちょっとボートで…」
「ダ~メ。ここでこれ以上したら溺れちゃうでしょ」
「これ以上って…なにを?」
「…『ナニ』を?」
「…」
「…」
「フフフフフ」
「エヘ♪」
「ちょっと頭冷やす?」
「アッ!ちょ、危ないからっ!マジで!押さないでッ!!」
にっこり極上スマイルのまま、多香子、両腕でグイグイ俺のことボートから押し出そうとすんのっ!!『もっと長いもの…オールがあったらよかったのになぁ(押し出しやすくて)』って。いや、なくて良かった、ホントに!
「マジで落ちるってばっ!!」
「だいじょ~ぶ~。智くん、泳げるでしょ~?」
「多香子!ゴメンてば!許してっ!冗談っ!ジョーダンです~~っ!!」
…ハイ。人間、欲出すとロクなことにならないってことがね、よ~くわかりました。まあね、少なくとも、口に出しちゃダメってことだよね。
「はい、ガンバ~」
「うぅぅ~…」
…うん。いいんです。ホント、湖に落っことされなかっただけで。ええ。残り全部一人で漕ぐくらい、なんてことは…。
キコキコ、キコ…
「もう足パンパンだよ~…」
ハンドル=多香子。足こぎ=俺。見事な担当分け。しかもね、ハンドル取られてるから。戻るに戻れないのよ。完全にトレーニングだよね、コレ…。
「え~?もうバテたの?あんなハードなコンサートやってる人が?」
「…まだ平気だけどっ」
「あはははっ。出た、負けず嫌い。明日筋肉痛で大変かもね~?」
「…いいもん。今夜動ければ」
「え」
はい、反撃開始。オイラはね、こっからです。
「ダンスで鍛えてる俺の足腰、なめんなよっ?」
「うっ」
「多香子はね、今夜、タイヘンだから。頑張ってね」
「へ?えっ、なにそれ。どういう意味っ?」
「あ、嘘。明日もタイヘンかもねぇ~♪」
「ちょ…っとぉ?智くんっ!?」
「んふふふ♪」
久しぶりの休日
多香子でいっぱいの休日
こんなに幸せなんだもん
だいじょーぶ
絶対
俺ぁジンクスなんかにゃ負けねーゼ!!
2011/10/6