第2章 許嫁とカミングアウト
「バカだね。ほんと」
「深夜とグレンには言われたくないかな」
「バカバカバカ」
「連呼するな」
深夜の顔は私の肩口にあって良く見えないけれど、すごく哀しそうで、寂しそうな声だった。心做しか体がふるえているようにも思える。
「ずっと、僕の片想いだと思ってた」
「なのに……」
「2人して、お互いを想ってたなんて。僕らはバカだ」
「バカなのは深夜だけでしょ」
「い~や、清華もだね」
「あり得ない」
高校時代に戻ったような不毛な会話。けれど、そこに深夜との全てがあった気がする。
会議などで重要なことも話していたけど、私をいつも支えてくれていたのは深夜とのこんな会話だったことに改めて気付かされる。
「何時から私のこと好きだったの?」
「高校ぐらいかな」
「あ、それって完全に浮気でしょ」
「しょうがないでしょ。好きになっちゃったんだから」
ドヤ顔で言ってくるけど、なんだかなぁ。
「信用できない」
「酷いなぁ~」
スゥっと深夜の顔が近付いてくる。さっきとは違って顔は背けない。
「はい」
「……ん!?」
チュッとリップ音を立てたのは間違いなく、私と深夜の唇。
「紅茶の味がする」
余裕そうな深夜に対して驚いて固まる私。多分顔は真っ赤だろう。
深夜との初めてのキスは、私の淹れた紅茶の味がした。
(「ねぇ、早くそこどいてよ」)
(「どうしよっかなぁ」)