My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
手首に微かにある違和感。
普段は感じないその違和感がなんだか嬉しくて、つい目を向けて口元は綻ぶ。
そのまま、また膝を抱くようにしてベッドの上で座り直す。
誰かに何かを形として貰えることが、こんなに嬉しいことだったなんて。
"枷"なんて、多分いいものではないだろうけど。
それでも、今の私にはそれは甘い縛りにも思えた。
膝を抱いたまま、もう一度数珠に視線を落とす。
ちょっとサイズ大きいから、任務中とか落とさないよう気を付けないと。
失くしたら神田に怒られそうだし…大事にしないとな。
「……」
そんなことを考えていると、ふと隣から感じる視線。
「…何?」
目を向ければ、じーっとこっちを見てくる黒い眼があった。
「…何ニヤついてんだよ。気味悪い」
そしてぼそりと、そんなことを吐いて──…って気味悪いって。
いいじゃない、ニヤついたって。
……嬉しかったんだから。
「…仏頂面よりはいいでしょ」
ぶすっとされるより、ニヤけられる方がまだマシでしょ。
…多分。
「大体、気味悪いなんて酷──」
酷い、と言おうとして。その言葉は止められた。
あっさりと近付いた神田の口が、私の唇と重なったから。
「……」
あっさりと一瞬だけ触れて、あっさりと離れる。
あまりにあっさりなことに、思わずぽかんと見上げると。
「気味悪いから、そんな顔他人に見せんなよ」
ぼそりと、そんなことを神田は口にした。
……………うん。
なんていうか………うん。
なんだろう…そういう経験したことないから、わからないけど…。
…なんていうか…どこか、空気が甘酸っぱい。
言われた台詞は決して嬉しいものじゃないのに、その行動や雰囲気は台詞と全然一致してなくて。
………なんか………照れます…。
「…気を付けます」
思わず口元を両手で押さえて頷けば、無言でくしゃりと頭を撫でられた。
優しいとまでは言わないけど、乱暴とまでも言わない手付き。
そんなふうに撫でられたことがなかったから、なんだか気恥ずかしさは増した。
……照れます、神田さんそれ。