My important place【D.Gray-man】
第31章 嘘と誠
「大事なものじゃないの? これ…」
「だから預かってろって言ったんだ。やるとは言ってない」
「え…そ、そんな大事なもの、私が預かっていいの?」
普段、物に執着しない神田が変わらず身に付けているものなら、きっと何より大事なはず。
思わず数珠と神田を交互に見れば、視線を外して神田はそれを口にした。
「それ自体に思い入れなんてねぇよ。それを付けることに意味がある」
「?…どういう…」
こと?
意味がわからず目で問えば、逸らされていた目がゆっくりと私に向いた。
「…そいつは"枷"だ」
…枷?
「枷って…なんの?」
「……」
問いに返事はなかった。
普段、自分のことは語らない神田だから。
これ以上は、踏み込めないことなのかもしれない。
「…付けることに意味があるなら…外していいの…?」
だから問いを変えた。
なんの枷にしているかわからないけど、神田は意志の強い人だから。
形にしてまでとどめている、何か強い"思い"がきっとあるんじゃないのかな。
「お前がそれを身に付けるなら、月城が俺の"枷"になる」
「…私が?」
「だから俺の傍にいろ。離れんな」
何も付けていない左手が、拳を握って私の胸の上に軽く触れる。
「体だけじゃなく"ここ"で傍にいろ。わかったな」
ぶっきらぼうな約束だったけど…多分、神田は私の為にしてくれたんだ。
子供じゃないから、これから任務が別々になったって文句なんて言わないけど。
ずっと離れているのは…寂しくないと言えば嘘になる。
そんな私に、これは神田がくれた形として残る約束。
…暴君だって思うことは多いけど…その下には私を思いやってくれる心がちゃんとある。
そんな優しさを感じて、自然と顔は綻んでいた。
「…わかった」
借りた数珠を、同じように左腕に通す。
腕のサイズに比べて少し大きいそれは無機質なものなのに、どこか温かく感じた。
「私が神田の枷になるよ」
神田の言う"枷"にどんな意味があるのかわからないけれど、形にしてまで抱いている思いなら、私がしっかり守ろうと思った。
ちゃんと神田の傍にいて、守っていこう。