My important place【D.Gray-man】
第30章 想いふたつ
心地良い、真っ暗な闇
柔らかい微睡みの闇の中
どれくらいそこに浸かっていたのか
…夢を見たような、気がする
──体拭くから、じっとしててね
夢のような、夢でないような
俺の耳には心地良い響きで届く、誰かの声
──早く起きないと、三つ編みにするぞー…
少しだけ寂しそうに呟く声が、なんだか無性に気になった
──心臓に悪いから…あんまりしないでよね…
少しだけ悲しそうに呟く声に、なんだか無性に手を伸ばしたくなった
──……もう無視はできないなぁ…
ああ…この声はあいつの──………って無視ってなんだよ
──…まぁ、だからといって別に何も変わらないけど
なんだか聞き捨てならない言葉に、ピクリと僅かに指先に力が入る
ゆっくりと、頭が覚醒していく感覚
「…忍耐力はあるかも…」
段々とクリアに響いてくる声
指先の、手足の、五感が俺の体に戻ってくる
「無闇に押し付けたりはしないからさ…だからせめて、抱えさせていてね」
顔の傍で囁かれる、優しい声
音色は心地良く思えても、その台詞は凄まじく納得いかないもんだった
お前…またそうやって言葉呑み込む気か
思わず眉間に力が入りそうになる
「……好き」
途端、唐突に耳に届いたその言葉に、胸の奥がドクリと音を立てた
耳を澄ませていないと聞き落としてしまいそうな程、小さく儚い声
一度も聞いたことのなかったそいつのその言葉が、酷く貴重なもんに思えて
ここで逃したら駄目だと思った